酒をつくる宮泉銘醸見学 ~銘酒・寫樂/會津宮泉を生み出す熱い思い~

宮泉銘醸

福島県は会津若松市にある宮泉銘醸様にお邪魔してきました!

専務である宮森大和氏に蔵内を案内して頂いたり、さらには蔵元・宮森義弘氏にお話しを伺ったり…たくさん貴重な体験をさせていただきました。
今回は、そんな取材を通して感じた蔵元の熱い思いや蔵内の様子を皆様にもお届けいたします!

歴史と風情溢れる建物

宮泉銘醸

日本百名城にも数えられる、福島県会津若松市、鶴ヶ城。
そのほど近くにある、風情溢れる蔵がこの「宮泉銘醸」。

蔵の前の道からは鶴ヶ城がすぐそこに見え、情緒ある街並みに溶け込む外観は歴史的景観指定建造物にも数えられ、蔵の敷地内も非常に雰囲気溢れる空間となっています。

「味気のあるところで酒を造っていきたい。その方がよいものができる気がする。」

という蔵元の言葉通り、蔵の周り、敷地内、さらには蔵内部に至るまでなんとも趣のある素晴らしい雰囲気でした。

宮泉銘醸

元々、蔵元の家系のご先祖様は別の土地に住んでいたとのこと。

移り住んできた際に現在蔵のある敷地を譲って頂いたイズミさんという方の名前と、蔵元の宮森氏の名前から取って「宮泉」の名が付いたとされているそうです。

宮泉銘醸の建物は元来もっと小さな造りだったそうですが、増築に増築を重ねて今の姿が出来ていったそうで、正面から見た際に屋根の高さのまばらさ、壁の材質の違いなどが目につきます。

伝統と革新、2本の柱

宮泉銘醸

「今でも毎年蔵では何かしら作っている」と、専務の宮森大和氏は言います。

18年前、現在の蔵元杜氏である宮森義弘氏が蔵に入って以来、蔵の設備を総入れ替えをしたそうです。
それ以前の宮泉銘醸は売上が低迷し、故に造るお酒の量も非常に少なく、また蔵の中も汚いという状況だったそうで、このままでは、との思いから蔵の設備を一新し、新たなる酒造りを始めました。

今でもその進歩は止まらず、年々設備を更新していっているのだとか。
その言葉通り、広大な宮泉銘醸の蔵内には伝統的な外観とは裏腹に機械と人間の技術、その2つを見事に融合させた酒造りが行われていました。

宮泉銘醸

取材時、ちょうど蔵内では仕込みの真最中!

もうもうと湯気を上げる蒸し米が専用の機械で運ばれて行きます。

そうして運んだ蒸し米は、蔵人の方々が丁寧に手を加えて次の行程へと進んでいきます。

蔵人の方々は皆さん手際よく作業していて、銘酒・寫樂や會津宮泉はここから生まれるのか、と思い感動します。

宮泉銘醸

その後も蔵内を見学し、様々な部屋を見せていただきました。静かに時を待つ麹や、雰囲気溢れる木造の廊下と、そこに置かれた何本ものタンク、さらには存在感を放つ圧倒のサーマルタンク群など…普段見ることのない光景に、ワクワクと感心が止まりません。

宮泉銘醸

また、厳正な管理がされる酒母室にもお邪魔させていただきました。そこはぷつ、ぷつとする微かな音とフルーティーな甘い香りが漂っていて、タンクの中を覗かせて貰うと元気に発酵している酒母を見ることが出来ました。

宮泉銘醸

そんな蔵内には、一部屋だけ異彩を放つ部屋があります。それは「分析室」という最新設備がズラリと並び、真っ白な壁に囲まれたまさにラボのような部屋。

ここでは、酒造りをより進化させるための研究や、実際に造られたお酒の全てが細かな分析にかけられデータ化し記録されています。これにより、宮泉銘醸はより高い水準、より高品質で美味しい酒造りを追求しているのです。

宮泉銘醸

また、宮泉銘醸の使う仕込み水は蔵からも望むことのできる磐梯山系からくる水を使用していて、その仕込み水は有名な「灘の宮水」に近い水質になっており、硬度が高く、ミネラルを多く含有するがゆえに発酵がしっかりと進み、香りがよく、キレのいい味わいを生み出すのに一役買っているとのことでした。

蔵元に聞く!『寫樂』と『會津宮泉』の違い

宮泉銘醸

ここからは蔵元・宮森義弘氏に伺ったお話をギュッとまとめてご紹介!
短い時間ではありましたが、「寫樂」や「會津宮泉」の成り立ちや歴史を様々に伺うことが出来ました。

宮泉銘醸は「寫樂」、「會津宮泉」という二つの銘柄を有しており、それぞれ別のコンセプトを掲げております。

寫樂は「季節に沿った銘柄米を使い、しっかりと磨いて造る」、會津宮泉は「伝統を守りつつ、次の時代に挑むような、新たなる試みを」。
造り手は同じでも、各ブランドの概念に基づいた高品質の日本酒が造られています。「私たちにできる事は、自分たちの役割を意識し、よりよいお酒を造ること」。その理念の元、一心に良い酒を造っているそうです。

宮泉銘醸

全国でも非常に高い人気を誇る銘柄「寫樂」。
この銘柄は今から15年ほど前、同じ会津若松のとある蔵元が廃業してしまった際に宮泉銘醸で引き継いだもの。

その際に鑑評会用のお酒を造る際に培ってきた技術や、今までの歴史の中で得てきたノウハウを全て注ぎ込み、全国でも通用するようなお酒としてリニューアルさせました。そうして一番最初に造られたのが「寫樂 純米吟醸」だったそうです。

その当時、福島県では酒造や酒米の研究が盛んではありませんでした。寫樂のコンセプトの一つ、「銘柄米を使う」というところから考え、県外産でも入手可能、酒造りもし易い五百万石を使用しました。
そうして現在も広く愛される「寫樂 純米吟醸」が誕生したそうです。

その後、福島県にて酒米「夢の香」が開発され、それを使用したものを造ろう、となり生まれたものが「寫樂 純米酒」。
そうして宮泉銘醸の「寫樂」の歴史は始まり、現在では日本中で引く手数多の銘柄となったのです。

今では全国からその季節ごとに「赤磐雄町」や「備前雄町」、「播州山田錦」といった名だたる地域の銘柄米を取り寄せ、季節毎の限定品として醸しているとのこと。

宮泉銘醸

また、10年程前から、代々あった「會津宮泉」の製造にも力を入れ始めたそうです。
寫樂の販売数が伸びてきた一方、會津宮泉の売り上げは伸び悩んでいました。思い切って生産数を少しづつ減らし、寫樂のみに注力するという選択肢もあったそうです。

ですが、「昔からずっとあり、代々蔵元が守り続けてきた銘柄も大切にしたい」、その一心から「寫樂にも負けない銘柄に育てていく」と決心。醸造のクオリティを寫樂と同じレベルまで底上げしていきました。

また、コンセプトにもあるように會津宮泉には「伝統を守る」といった側面もあります。
例えば宮泉銘醸の造っているお酒は現在、そのほぼ全てが純米酒で造られています。ですがごくわずか、割合にして1%も満たない量になりますが、醸造アルコールを加えた、いわゆる吟醸酒といったものも作っているのです。

それは「技術を残すため」という意味合いもあり、尚且つ「伝統を守る」といった役割も持っているのです。

宮泉銘醸

さらに、二つの銘柄にはコンセプトの違いだけでなく、そのお酒の設計にも異なった個性があります。

「寫樂」は醸造、瓶詰した後、酒販店に到着、お客様の手元に届くタイミングまでをも綿密に計算してとにかくフレッシュさを重視して製造されているとのこと。また、味わいも甘味、酸味がバランスよく広がり、誰が飲んでも美味しいと思う酒を目指して造られています。

対して「會津宮泉」は味わい自体寫樂と比べ、もう少し辛口に感じます。それは寫樂に比べ、上槽のタイミングを少し遅くずらしたり、瓶貯蔵の期間を長く設けてから出荷しているからだそうで、フレッシュさを重んじる寫樂とは反対に會津宮泉は「熟成」という部分に少し目を向けた側面もあるそうです。

そしてやはり決定的なことは、どちらの銘柄も非常に高い水準で造られているということ。ノウハウや技術を注ぎ込み、一つ一つの作業を丁寧に、手間を惜しむことなく造られています。

挑戦を止めない老舗が描く夢

宮泉銘醸

今あるものを守る、ということだけでなく新たなる酒造りへの挑戦も止まるところを知りません。

「會津宮泉は、私たち酒蔵だけでなく酒屋さん、飲まれる方々、みんなで作っていくイメージでいる」ということで、5~6年前より、蔵内一同で意見交換をしたり、今まで使用したことのなかった酒米を用いたり、新しい造りを模索したりと、様々な試みの研究を行っております。

例えば限定品として過去発売されてきたものでいえば、「貴醸酒」や「生もと造り」、低温で長期熟成を試みるといった近年注目されている造りを用いた物、「渡船弐号」や「山田穂」などといった寫樂のラインナップでは見られなかったお米を用いた物など、興味をそそられるものが沢山あります。

そのほかにも、今現在では商品化には至っていないが、試験的に醸造しているものや今後やってみたい造りなど様々な案があるそうです。

宮泉銘醸

様々な思いや情熱、そして技術。その全てが結晶化されて生まれた「寫樂」、「會津宮泉」。
短い時間の中でも、それらをしっかりと感じることができ、非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。

宮泉銘醸様、貴重なお時間をありがとうございました!