酒をつくる関谷醸造見学 第2編 ~杜氏に聞く酒造り~

一念不動の杜氏に聞く関谷醸造の酒造り

今回の取材時、忙しい合間を縫って吟醸工房の杜氏である宮瀬さんにお話を伺うことが出来ました。
そのお話から見えた蓬莱泉、一念不動に込められた情熱や思い、こだわり。また、関谷醸造の酒造りへ向き合う姿勢などをまとめました。

関谷醸造見学

関谷醸造に存在する2つのラインナップ、『一念不動』と『蓬莱泉』。この二つは大きくコンセプトが異なっていて、それぞれがその仕込み蔵の水にも影響を受けています。

蓬莱泉を仕込む本社蔵の水は軟水。その軟水で丁寧に、手間と技術を注ぎ込んで生まれたのが辛すぎず甘すぎず、非常に口当たりの柔らかなお酒。これらを熟成させることによって、蓬莱泉ならではの深みとまろやかさが表現されています。

対極に一念不動は、飲みごたえやしっかりとした味わいを求めて設計されているとのこと。また、水も本社蔵とは異なり、軟水に近い中硬水となっています。吟醸工房と本社蔵の位置が離れているのも、理想の水を求めた結果、この位置になったというシンプルかつ深いこだわりの見える理由。また、一念不動には生酛のお酒も多く見られます。それは一念不動を手掛ける宮瀬杜氏得意の手法でもあり、一念不動の酒質にもあっているからと仰っていました。

酒質や設計の違いこそあれど、双方共に並々ならぬこだわりを持って醸されているのには違いありません。

関谷醸造見学

また、吟醸工房、本社蔵共に酒造りに関するデータは全て綿密に記録されていて、いつでも閲覧できるようにされていて、おかげで再現性が高く安定した酒質で酒造りが出来、杜氏含む蔵人にとっても働きやすい環境が実現されています。

酒も人も大切にする関谷醸造らしさが至る所に見受けられ、こだわりと働く環境の整備、そして蔵の位置する地元への思いも忘れない関谷醸造の酒造りは、まさに『和醸良酒』。この思いやりの心があってこその多くの銘酒が生まれているのだとお話から感じられました。

関谷醸造見学

そんな関谷醸造には数多くの商品があり、今でも新商品の研究は続いています。
その商品の中には、本格的な瓶内二次発酵を行うスパークリング日本酒といった現代的なものも。

今回の取材中に伺っただけでも、数えきれないほどの試験醸造品がある様子でした。
伝統をしっかりと守りつつ、新たなる試みへの挑戦も忘れない柔軟な姿勢に感心します。

酒の原点『米』への深いこだわり

関谷醸造見学

取材中、様々なお話を聞く中で、関谷醸造の酒造りの原点とも言えるような揺るぎないこだわりを感じるものに気が付きました。

それは、原料である米。自社栽培も行い、社内に『アグリ事業部』と呼ばれる農業部門も持っているほどに米への強いこだわりを持つ関谷醸造。そのこだわりの理由を聞きました。

まず、関谷醸造が主に使用している米について。山田錦と夢山水の2種類の米を主として使用していて、山田錦は兵庫県産と、蔵からも近い愛知県新城市産のものを使用しているそう。

もう一つの夢山水はあまり聞き馴染みのないお米かもしれませんが、この夢山水こそが、関谷醸造が並々ならぬこだわりを注いでいる米なんです。この米は、平成10年に愛知県で開発された山間地向けの酒造好適米で、酒米の王様とも言われる山田錦に劣らない酒造適正を持ち、低たんぱく、大粒、少し硬めといった特徴を持ち、高精白にも向いた特性を持っています。

一念不動のラインナップは多くがこの夢山水で醸されていて、その味わいは雑味が少なく、スッキリとシャープながらも旨味を感じさせるような美しい味わいを特徴としています。

関谷醸造見学

関谷醸造ではこの夢山水を自社栽培していて、『蓬莱泉 魔訶』のような最高峰のお酒にも自社栽培米が使われています。元々は関谷醸造150周年記念酒として自社栽培米を使って最高峰の酒を、というコンセプトの元に生み出された珠玉の一本で、その完成度の高さゆえ非常に好評であった為に限定品ではありますが、ラインナップとして加わったんだとか。

関谷醸造見学

全量自社栽培を出来れば理想なのですが、人手不足や土地の不足等、また、山田錦はそもそも蔵近辺では土壌が合わず育たないといった様々な理由があり全ラインナップ中でもごく一部にしか自社栽培米を使用できていないんだそうです。

何故ここまで自社栽培に拘るのか?それは、ゼロからゴールまで、全ての行程を見られることを大切にしたいという思い、そして、『和醸良酒』の考え方にも繋がっています。

関谷醸造の米作りは社員総出で行われ、杜氏や蔵人、酒造りに参加する人達もみんな草刈りや田植え、稲刈りといった作業に参加します。ゼロからゴールまでを見る、という考えに沿っていますし、何より米が育ってきた環境や米の具合、素性が分かることでより酒造りしやすくなるといった思いがあるから全員が米作りに参加するのです。

もちろんここにも、作業の負担を軽減するために最新鋭の農業機器をいくつも保有するなどの投資が行われています。

関谷醸造見学

現在、約250枚程の田圃を保有する関谷醸造。その田圃は関谷醸造がもともと持っていた土地の他にも、地元の農家の方から譲り受けたものや借りているものもあるそう。

関谷醸造の地元・愛知県設楽町はのどかな農村地帯や深い森も多く、名古屋や岡崎といった愛知県内の都市からも離れている為過疎化、高齢化が進んでいます。
その為、離農される方も多く、無駄になってしまう土地を関谷醸造が改めて利用することで土地の活性化、また、そこでできた米を使用することによって地産地消を実現するという意味合いもあります。

関谷醸造見学

地元全体を巻き込んで生まれる和醸良酒。それは関谷醸造の酒が体現するテロワールにも繋がり、一本一本の酒が持つバックストーリーでもあります。それこそが関谷醸造が米にこだわる理由なのです。

育苗から始まり、収穫、そして仕込み。非常に手間と時間がかかる取り組みではありますが、関谷醸造は今後もこの取り組みをどんどん拡大し、地元の活性化を目指したい、ということでした。
和醸良酒という考え方は、知れば知るほどSDGsに沿ったものなんだ、と実感します。

地域や人々を幸せにしながら、自分たちの酒造りを続ける。また、そこで生まれたものを無駄にはせず、しっかりと使い切ったり次に繋がるような形にする。それこそ持続可能な開発目標、という言葉がぴったりなのではないでしょうか?

関谷醸造見学

今回様々な話を伺うことで、関谷醸造が考える酒造りというものの壮大さの一端に触れることが出来ました。
また、この思いや試みがあるからこそ『空』や『吟』、『魔訶』といった素晴らしい銘酒が生まれたのかもしれません。

ご多忙な中取材に応じて頂き、また貴重な経験をたくさんさせて頂くことが出来ました。関谷醸造様、大変ありがとうございました。

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