酒をつくる芳醇辛口の土佐酒を生み出す吟醸蔵~酔鯨吟醸蔵を訪ねる~

南国土佐は酒の国

酔鯨吟醸蔵を訪ねる

古くから酒好きが揃う国、土佐。
カツオのたたき、野菜を使った田舎寿司などの郷土料理が大皿に盛られた、皿鉢料理を囲み老若男女が酒を酌み交わす。

酔鯨吟醸蔵を訪ねる

この地には、おきゃく、はし拳、べく杯、どろめ祭りなど個性的な酒文化が息づく風土がある。明治期に、酒税が日本の歳入の約三分の一を占めるほどに膨れ上がった時、酒税の減額を陳情したことは土佐人の気質を感じさせるエピソードです。

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また、台風が頻繁に上陸するため、米は8月上旬頃の早い時期に収穫されます。

さらに日本屈指の清流とされる仁淀川などの水源にも恵まれ、水道水は硬度40~60の軟水でとても美味しい。その水でアキツホやフクヒカリなどの米を醸す酒はキレの良い辛口となり、それが郷土料理によく合うのです。

意欲溢れる酒造り

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南海を見下ろし威容を誇る高知城はまさに土佐のシンボル。関ケ原の合戦で手柄を立てた山内一豊によって土佐は栄え、酒文化も発展したといわれます。

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坂本龍馬を始め幕末の志士の故郷でもあるこの地。稲作や酒造りに対しても古くから革新的に改良や開発に取り組む志を感じます。

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「高育54号」とも呼ばれる「吟の夢」は山田錦とヒノヒカリを交配したもので、高知に適した特性を持つ吟醸用酒造好適米として開発されました。

それによって高品質な吟醸酒の製造が増え、昨年のソムリエ協会の例会セミナーで試飲に出された酒は香り高い吟醸酒主体となり、カツオのたたきなどの郷土料理ではなく、「サーモンのムース」「ウニのロワイヤル仕立て」「生クリームにフルーツをトッピング」「白玉ぜんざいにバニラアイスを添えて」といったペアリングが提案されていました。

スッキリ辛口に留まらず、華やかな香りの吟醸酒も注目され、土佐酒の魅力は益々広がっているのです。

熱意溢れる酵母開発

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高知の開発酵母はCEL酵母が有名で、この酵母によって香り高い酒が醸されます。

また、酒造用酵母を宇宙の無重力空間に10日間据え置きストレスをかけることで変異を促し、その中から優良なものを抽出し培養した「宇宙酵母」は特筆に値します。

さらに、昨年開発された「宇宙深海酵母」は、その宇宙酵母を深海6000mに4ヶ月沈めたもの。1度目はあまりにもストレスが強すぎて全滅し、その生存確率はなんと3億分の1とのこと。
それほどの困難を乗り越えて、ようやく商品化に漕ぎつけたロマン溢れるストーリーも土佐らしさといえます。

南国で温暖な気候の土佐は酒造りには厳しい環境なのですが、米の改良、酵母開発などによって適応し、より良い酒造りを目指していく哲学があります。
それは従来の伝統蔵に息づく醸造技術に加え、最先端の設備を活かすなど工夫を取り入れた革新的スタイルといえます。

酔鯨土佐蔵はまさにそのような考えを具現化した吟醸蔵です。今回は2021年に見学させて頂いた内容に基づいて、その素晴らしさをご紹介したいと思います。

一気通貫で徹底した品質管理

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1872年創業の酔鯨酒造は、桂浜からほど近い長浜で酒造りを続けています。
酔鯨土佐蔵は、そこから少し離れた土佐市に2018年に建てられた吟醸専用蔵。
最高設備による最高品質の酒造りを目指すためISO22000を取得、原料米の精米から、瓶詰め、冷蔵保管まで一気通貫で徹底した品質管理を行っています。

近隣の駅から離れた立地で、交通手段も限られるので高知駅からタクシーで向かいました。
帰りのタクシーもつかまりにくいので乗車時に往復でお願いすると安心です。
移動時間は1時間程度。タクシー代は当時で片道7000円程でした。

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見学受付のあるホールはスタイリッシュな空間が広がり、蔵見学への期待が高まります。
カメラなどの荷物はロッカーに入れ、身軽で見学に集中できます。
白衣をまとい、帽子をかぶり、靴も履き替え準備万端。いざ蔵に入ります。

最高の設備で最高の品質を目指す

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入口から入ると早速そこには巨大な縦型精米機がそびえ、黙々と稼働しています。ここでは全て自社精米。それぞれの米の特性に合わせ、時間をかけて丁寧に精米しているとのこと。
米は長時間の精米によって温度が上がり乾燥気味になるため、涼しい倉庫内で1ヶ月ほど寝かせ、米本来のコンディションに戻します。

次の部屋にあるのは、巨大な精米機とは対象的にコンパクトな自動洗米機。限定吸水を行うため、小ロット毎に洗米、吸水作業が行われます。
厳密に時間を管理し、麹用、初添中添、留添用を分け、手作業にこだわった繊細な作業が行われます。

品質に対するこだわりと合理化を併せ持つ酒造り

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蒸きょうは、ボイラー釜によるもの。コメを乗せるシートの下部にダミーの米をひき、蒸気が直接米に当たらないよう工夫がなされています。

蒸し米の入ったシートはクレーンで一気に移動することが可能で、スコップで掘り返さなくても良い。合理化できる部分はどんどん設備を取り入れていく意欲を感じます。

蒸し米は自動放冷機に移され、冷まします。
表面が乾燥し、パラパラになった蒸し米は、麹米、酒母用米は手作業で運ばれ、掛け米はエアシューターで仕込槽に投入されます。緻密に考えられたレイアウトによって、合理的な作業の流れができています。

夕方でしたので実際に作業を見たわけではありませんが、エアシューターで仕込みタンクに掛け米を送る作業はいかにもダイナミックで、伝統的な酒造りにおいて蔵人が布や桶に蒸米を採って力強く運んでいく光景とまた違った凄みがあります。

最新設備による酒造り

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麹室にある清潔な床は、伝統蔵の素木のものと違いステンレス製です。より衛生管理に優れたものを躊躇することなく採用している姿勢を感じます。

麹室の向かいに酒母室があります。酒母用タンクはコンパクトなステンレス製のもので、高温糖化酛で酵母を純粋培養します。そのため糖化時間が短く、10日で酒母が仕上がるので、タンクは4基で回しているとのことです。

仕込み室は、3500リッターの巨大なサーマルタンクが20基ほど並び、仕込用と貯酒用に分かれています。部屋はタンク上部から中が確認できるように上層階にあり、純米大吟醸が仕込み中で、部屋は熟れたリンゴの香りで満ち溢れています。

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30~35日ほどで発酵が終わり、仕込み室の下にある低温管理された部屋で横型自動圧搾機で搾られ、直ちに貯酒タンクに戻されます。ここから見上げると、3mほどの巨大タンクが立ち並ぶ景色は壮観。
それぞれのタンクには一升瓶1000本分の酒が貯蔵されるとのことです。

また、仕込み室に設置された貯水タンクには仕込水が入っています。水が変わると酒造りが変わってしまうので、本蔵で使っているものと同じ水を毎度汲みに行き、タンクに貯めおかれます。
合理化できるものは躊躇なく合理化する一方で、ゆずれないものには徹底してこだわる、そんな強い意志を感じます。

酔鯨の魅力あふれる試飲ホール&ショップ

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ホールに戻ると、お楽しみの試飲です。
山田錦大吟醸の無濾過原酒と割り水したものの飲み比べ。とてもピュアな色調で香りも雑味のないフルーティな印象。ふわっと口内に広がる旨味、後味はスッキリと辛口の酒です。

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無濾過原酒はボディがあり酒感もしっかり、まさに芳醇な味わい。アルコール度数が高いため他の風味が抑えられ、フラットでキレを感じる印象です。

一緒に提供いただいた酒盗は驚くほど癖がなく、深いコクと甘さが織りなす旨味がこの酒によく合います。

割り水した方が、逆に味わいのコントラストがくっきりした立体的な印象で、幅広い料理に合わせることができると感じました。

酔鯨吟醸蔵を訪ねる

酔鯨土佐蔵は予約が可能で、精米から上槽まで一気通貫で見学できるのは他ではなかなかありません。シャンパンブティックを思わせるスタイリッシュなホールは心地よく、スタッフの対応も素晴らしい。

オリジナルの利き猪口やTシャツなどのグッズも販売されており、是非行かれることお勧めします。未だ知ることのなかった酔鯨の魅力に触れること間違いありません。