酒を楽しむ風の森「秋津穂」2種飲み比べ

風の森と秋津穂

風の森秋津穂テイスティング

今回ご紹介するのは、風の森 秋津穂の精米歩合の異なる2品種です。奈良県御所市の油長酒造が造る風の森は、金剛葛城山系の水と米でフレッシュに醸した酒です。中でも、地元の風の森峠周辺で栽培される米「秋津穂」は「風の森好適米」としてフラグシップ米とされています。秋津穂は一般米ですが、契約栽培農家と共存共栄で生育をコントロールし、飯米特有の粘りを抑え、風の森に対してハイレベルの醸造適性を発揮させるのです。

秋津穂はヤマビコと日本晴の交配種です。父の日本晴にちなんで、日本の別称「秋津島」から命名されました。そもそも日本の別称が秋津島というのは、本州の形が秋津虫 ( 秋の虫 ) と呼ばれるトンボに似ているからとのこと。トンボが飛び交う空、なだらかな丘陵地に広がる棚田、たわわに穣る稲穂。風の森峠の秋の豊穣の風景が目に浮かびます。峠の頂上には神社があり農業神としての風の神(志那都比古神)が祀られています。この峠は太古の時代に大規模な稲作文化が始まったロマンあふれる地なのです。

風の森秋津穂テイスティング

風の森とマクロビオティック

一つ目の酒「風の森 秋津穂 657」は、精米歩合 65% で7号酵母を使用したものです。65%の精米歩合は、適度に雑味成分を取り除きながら米本来の栄養素を残すことができ、スタンダードに秋津穂らしさを表している酒と言えるでしょう。ラベルの背景の色は淡い若葉色で、墨文字ではなくパステル調の黒で、優しく描かれたロゴ。この商品が風の森ブランドの始りで代表作です。

二つ目の酒は「風の森 秋津穂 807」。807シリーズは精米歩合 80% の米を 7 号酵母で仕込んだ風の森。米を磨きすぎないことでパワーを引き出すことが特徴です。秋津穂は低精米での醸造が難しくまだ試験段階ですが、今回うまく苦味を抑える事ができたため、限定ですが初めて商品化に至ったとのことです。ラベルの背景の色は生き生きとした若草色で、まさに太陽に照らされた稲の葉が青々しく生い茂る田んぼのようで、大地のパワーと生命の息吹を感じます。657をグッとパワフルにした印象を持ちます。

風の森秋津穂テイスティング

金剛葛城山系の土地にこだわる風の森の酒造りは、食養学の身土不二、一物全体論、陰陽調和といった考えに通じると思います。その土地で採れるものを、できる限りそのまま丸ごとで、バランスをとりながら酒という形にする。そういった物を摂ることで健康な身体を維持することができる。すなわち、食を通じて健康や美容を目指すマクロビオティックの側面を感じるのです。

原料の米、水のパワーを発酵に活かす。地元に吹き抜ける風までもが酒の味につながる。「風土を醸す」。普通に楽しめることに加え、健康や美容を重視するライフスタイルに受け入れられる酒としても注目したいです。

磨きにより香り、そしてガス感も変わる

風の森秋津穂テイスティング

まず外観を比べてみます(注※真ん中は水です )。657がほのかにイエローががったクリスタルカラーであることに対し、明らかに807の方がイエローが濃いと判ります。

香りは、657はフルーティーなメロンの香りが心地よく、白桃のような優しい香り。金剛山系の石灰岩に由来するのでしょうか、ミネラルの香りも感じられます。一方 807は熟したメロンやバナナの香りがふくよかで、さらに栗のような香りがあり、ボリュームのある立体感を形作っています。しっかりと分厚い印象があり、その味わいに期待が膨らみます。

657は口に含むとフレッシュな微炭酸が口内を刺激しますが、まろやかな甘みがじんわりと和らげてくれます。後味に残る苦味は心地よく、酸と共に甘味をバランスよくまとめています。炭酸ガスが若干強いので、2、3日置くとガスが弱まって印象が変わり、違いが楽しめるのも風の森の面白さです。対して、807はガスは穏やかですが、濃厚な口当たり。甘味が豊かに広がり、後味では存在感のある苦味と酸がせめぎ合い、アルコール感も合せ複雑な余韻として調和していきます。ぬる燗にすると甘酒のような口当たりです。甘味がしっかり感じられ、苦味と酸味の印象が変わりますがバランスは良く、おいしい。

657はコントロールされた穏やかなバランス、807はエネルギーに満ちたパワーのバランスといった印象です。

合う料理

風の森秋津穂テイスティング

【秋津穂 657】
穏やかでバランス良く、幅広い料理に合うと思いますが、心地よいほろ苦さがある野菜は如何でしょう。水菜のからし和え、茗荷のお浸し、焼き丸なす、クレソンのオムレツのように甘苦いハーブを活かした料理も良いと思います。

風の森秋津穂テイスティング

【秋津穂 807】
酸がしっかりして味が複雑なため、味噌炒め、ジビエ、炭火焼き等濃い味わいの料理が良いでしょう。また、しっかりした苦味のある野菜も合うでしょう。ピーマンの肉詰め、ブロッコリーとベーコンのガーリック炒め、結崎ねぶかを使った焼ネギのバーニャカウダも良いですね。さらに、マクロビオティックの観点から、豆乳チーズなど動物性食材不使用の料理はイメージがピッタリです。シリアルにオーガニックのはちみつをかけたものなど、ヘルス&ビューティのライフスタイルに合った斬新なペアリングを考えるのも楽しいですね。

あくまでも個人的な感想ですので、ご自身の素敵なフードペアリングのご参考になれば幸せです。