酒を知る酒米が持つ魅力 -前編-

はじめに

酒米が持つ魅力

山田錦、雄町、五百万石・・・。現在全国で栽培されている「酒造好適米」は100種類以上あり、さらにササニシキや秋津穂、ヒノヒカリなど一般米もいれるとたくさんの種類のお米が酒造に使われています。

原料のお米が日本酒の製造工程や酒質に与える影響は大きく、蔵人はその米のキャラクターを見極め製造工程に工夫をすることで、目標とする酒質に近い日本酒を造っていきます。
ワインにおいてぶどう由来の色や香味の違いを楽しむように、日本酒においてもお米の特徴が楽しめればきっと素晴らしいことでしょう。

雄町はふっくらとした味わい、山田錦はきりっとした辛口のお酒を生むなどといわれます。お米は主食として食べている生活に密着したものです。そんな身近なお米のキャラクターに注目してみましょう。
それによって自分の好みの日本酒をますます好きになったり、また同じお米の日本酒を飲み比べるなど、きっと新たな魅力に出会えることと思います。

酒造好適米とは

酒米が持つ魅力

酒造好適米の特徴は、一般的に大粒で心白があることやタンパク質や脂質が少ないといったことが言われます。

心白とは米の中心部のでんぷんが緩やかに集まって白く見える部分のことで、お米の品種や気候条件によって現れるものです。心白は柔らかいパフ状のでんぷんなので良い麹が造りやすく、また醪に溶けやすいので酒造に適しています。

しかしながら心白が大きすぎるともろく高精米で割れてしまい、心白の形状により製造工程に工夫が必要となります。また、タンパク質や脂質の多いお米は、残念ながら発酵がしにくく香味の劣化も進みやすくなってしまい、酒質が落ちてしまいます

酒造好適米による違い

酒米が持つ魅力

山田錦、雄町などの晩生(おくて)のお米は10月以降に収穫されます。盛夏が過ぎ、昼夜の寒暖差が大きくなる時期にじっくりと登熟するため、粒も大きく心白も多い味わい深い米となります。大粒のお米は背が高く、栽培が難しい一面ももっています。

五百万石や美山錦など早生(わせ)のお米は登熟が早く9月上旬に収穫されます。そのため涼しくなるのが早い寒冷地での栽培に適します。心白はありますが米が硬く、高精米に向きません。晩夏の夏野菜のようなイメージでしょうか。
美山錦は耐寒性があるため、山形の出羽燦々や秋田の美郷錦など寒冷地の開発米の親株にもなっています。

各地方の農事試験場などでは地方毎の土地や気候に適した米の開発に長年にわたり取り組んでいます。特に最近では開発米を前面に打ちだして独自性を出す活動に取り組んでいる都道府県もあります。

お米の持つ物語

酒米が持つ魅力

各栽培農家はそれぞれの土地や気候に合わせ工夫をし、米を栽培しています。特に粒が大きく栽培がしにくい酒米は苦労が多いのですが、収穫された米にはそれぞれのドラマが刻まれているのです。

開発のストーリーもさることながら、土壌、水、栽培時期、気温や日照、台風などの自然現象等、さまざまな条件に対し栽培農家が努力を積み重ねています。それによってお米に特徴が生まれ、蔵人はそれを見極め、最適の方法を選ぶのです。

ご飯を炊く前にお米に一定時間吸水させると柔らかくなります。酒米は軟質である上に精米することでさらに吸水が良くなるため、吸水はとてもデリケートな作業になります。さらに麹や酒母の量を調整するなど、原料米の特徴にあわせて酒造工程に工夫がなされるのです。

酒造好適米の王様「山田錦」、その山田錦を始め多くの酒造好適米に DNA を受け継ぐ「雄町」、実は愛知県で開発されたけど現在は奈良県だけで栽培されている「露葉風」。お米はそれぞれストーリーを持ち、蔵人は、その良さを如何に引き出して魅力的な酒を造るか、ということに魂を込めているのです。

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