酒を知る収穫の秋、酒のシーズン到来

採れたての艶やかな新米を新酒に醸す

採れたての艶やかな新米を新酒に醸す

ぷっくらと張りのある真っ白の米粒は、艶やかに、まるでプラチナのように輝く。甘くて香ばしくふくよかな香りが鼻に抜けていくのがたまらない。モチモチとした食感が心地よく、噛むほどに甘味が増していく。とれたて新米の炊き立てご飯の旨さは絶品です。

そんな新米が、ひやおろしの出荷が始まり活気を帯びてきた酒蔵に運び込まれ、仕込みが始まります。10月上旬頃から始る酒造りは春先まで続き、12月に入る頃に次々と姿を見せてくれます。

新酒は「しぼりたて」、「初しぼり」とも呼ばれ、フレッシュさが一番。まだ香りや酸が落ち着かず、粗さも残りますが、それを差し引いても余りある新鮮さが何よりの魅力です。桃やマスカット、バナナのようなフルーティな香り。炭酸ガスをやや含みプチプチと柔らかな刺激のある口あたり。口に含むと優しい甘さが押し寄せ、爽やかな酸と苦味がそれをサラッと流していきます。
夏酒とはまた違った溌剌とした飲みやすさは魅力的ですが、口当たりが良すぎて深酔いしやすい為、和らぎ水を用意しましょう。

今回は、新酒にまつわるお話として、早い時期にとれる早生米の話と、新酒の魅力を引き立てる「しぼり」についてご紹介いたします。

米の品種改良は我々の社会にとって大切なテーマ

米の品種改良は我々の社会にとって大切なテーマ

米は古くから我々の重要な主食なので、その採れ高により経済や社会が大きく左右されてきました。

加賀藩の豊かさを「加賀百万石」と称えて言いますが、今のお米(判りやすく10㎏2500円として)で換算すると、1石は約150㎏ですので100万石だと375億円になります。大雑把な比較ですが、令和3年の石川県の一般会計予算が約6500億円ですので、当時の人口やGDPを考慮すると、如何に稲作が江戸時代の経済を担っていたのかと判ります。

何度も飢饉に襲われ人々が苦んだ歴史を繰り返さないように、稲作の安定は社会にとって大切なテーマであり続けたのです。

夏に酒を愉しむ

稲は元々熱帯性植物なので、寒さにはあまり強くありません。また、短日性植物なので、日が短くならないと穂が出ません。そのような稲の特徴に対し、長年にわたり品種改良が取り組まれ、寒冷地でも栽培が可能になり、早く収穫できる品種等も開発されてきました。

一般的に稲は種播きから約4カ月で出穂・開花します。そして1カ月程度かけて光合成によりデンプンを作り、蓄えます。この工程を登熟と言い、この期間に冷害があると米粒が痩せ粒揃いが悪くなり、猛暑で高温になればデンプンの質が落ちる等、米の品質に影響を与えます。ですから、そういった天候に適応する為の取り組みは、良質な米を収穫するためにとても重要なのです。

早生米の開発~五百万石の誕生~

早生米の開発~五百万石の誕生~

山田錦の栽培北限は東海地方と言われます。実は東北地方でも栽培されてはいますが、良いお米にするには難しく、限界があるようです。米の収穫量を増やす為、「開花や結実時期を早める」「耐寒性」「耐倒伏性」等をテーマに長年にわたり品種改良がなされてきました。

特に大正から昭和にかけて品種改良はより近代的になり、稲作は正に公益を保つ為の官民一体となったプロジェクトとして取り組まれてきました。現在も、各県毎に農協や酒造組合、農事試験場など行政が中心となり、それぞれの風土にあう米を作るため熱心に取り組まれています。

五百万石は正にその代表の一つです。酒造好適米生産量第二位のこの米は、新潟県で交配によって誕生しました。第2次世界大戦で栽培が一時中断しましたが、1957年に新潟県の奨励品種として品種登録され、新潟県産米の生産量が500万石を突破したことを記念して命名されました。大粒で心白のある早生米で、淡麗辛口の味わいが人気の酒米として、新潟をはじめ北陸を中心に普及しています。

五百万石は成熟期が9月3日とされており、秋の気温低下の早い地区での栽培に向きます。新潟県の越淡麗(五百万石x山田錦)や島根県の神の舞(五百万石x美山錦)など、その特性を生かした交配も更に取り組まれ、各地域の風土に合った品種として酒造りを支えているのです。

しぼりたてのフレッシュな美味しさを楽しみたい

しぼりたてのフレッシュな美味しさを楽しみたい

しぼりたての牛乳、生ジュース、オリーブオイル。「しぼりたてモンブラン」なんてスイーツまで登場し、名前を聞くだけで出来立てのナチュラルな美味しさを想像して、食べてみたい気持ちになりますね。

火入れしない新酒は「しぼりたて」と呼ばれ、出来立ての魅力をストレートに感じさせてくれます。酒造の「しぼる」とは、醪を清酒と酒粕に分離する「上槽」と言う工程の事です。「こす」ともいいますが「濾過」とは別物です。「濾過」は清酒の沈殿物を取り除く作業のことで、火入れや瓶詰め前に行う、製品としての仕上げ作業に当たります。

伝統的な上槽をする機械は「槽(ふね)」と呼ばれ、浴槽のような形をしており、その中を上から押すように重しが降りる仕組みになっています。例えれば押鮨の押型のようなものです。醪は固形成分やエキスが多いため濾過抵抗が強く、いきなり圧力をかけてもしぼれません。

まず、醪を酒袋に小分けにし、槽の中に積みます。すると、圧力をかけることなく酒が自然に滴り、槽の出し口である「舟口」から迸ります。これが「あらばしり」と言われるものです。圧力をかけないため、雑味が少なくきれいな味わいとなります。ワインのフリーランと同じですね。

次に、徐々に重しで圧力をかけていくと、本格的に清酒がしぼられていきます。これが「中取り」や「中汲み」と言われるものです。それでもしぼりきることはできませんので、一旦酒袋を積み替えて更に圧力をかけていきます。これが「責め」や「押切り」と言われるものです。責めによって上槽は完了し、酒袋には酒粕が残ります。

しぼりたてのフレッシュな美味しさを楽しみたい

しぼりたての生原酒は、今では瓶詰め出荷されるものもありますが、無調整の生乳のようなデリケートな品質なので流通量も限られ、酒造の季節にしか飲めない貴重品なのです。

今では、大型のアコーディオン状の自動圧搾機を使う蔵も増えているのですが、鑑評会用の酒等はより雑味の少ない「雫搾り」で行われます。酒袋を吊り下げてポタポタと垂れる酒だけをしぼる為、雑味のない香り高い酒になるのです。

また、他にも工夫を凝らした方法が取られています。たとえば、風の森の油長酒造では「笊籬採り」というオリジナルの方法で、特殊な籠状のスクリーンを用います。無加圧で空気に触れることなくしぼるので、酸化に加え、香りの揮散も防げます。このような、従来の常識に囚われない取り組みは酒造の可能性を広げ、個性豊かなお酒の魅力を益々高めているのです。

新酒は飲みやすいものが多いので幅広い料理と楽しめます。寄せ鍋や湯豆腐などのあっさりとした鍋料理はひやの新酒で頂きたい。脂ののった魚介にもぴったりでマグロ、寒ブリ、鰆などの刺身やクエ鍋にも良い。正月料理にもピッタリで、新たな米と酒に感謝して飲めば、清々しい気持ちになれるでしょう。

秋に頂きたいおつまみレシピ