酒を知る酒米が持つ魅力 -後編-

前回は酒造用のお米がどのような違いを持つかについてご紹介しました。お米にはその開発の歴史や栽培農家の皆様の思いが込められています。そしてその米に惜しみ無く注がれる蔵人の情熱が日本酒を醸しだすのです。まずは具体的に3品種のお米についてご説明します。

山田錦~酒米の王様~

伯楽星

兵庫県で灘の寒造りに適した究極の米として開発されました。大正末期に山田穂と短稈渡船を交配し、何度も育種選抜を繰り返し長い年月をかけ開発された、正に「酒米の王様」です。また、短稈渡船の先祖は雄町といわれ、山田錦にも雄町の DNA が受け継がれているのです。

晩生で大粒、タンパク質は少なく、高精米に適した「線状心白」が特徴。兵庫県で全国の約70%が生産されていますが、中でも六甲山地の北側の丘陵地にあたる吉川町など特A地区のものは最高品質で高額で取引されています。
その他日本各地で栽培されていますが、山口、富山、岡山、徳島、福岡などの県も栽培に力を入れており、富山の越中山田錦や福岡の糸島産山田錦はブランド米として知られています。

滑らかな味わいで奥行きのある豊潤な酒になり、鑑評会用の酒造にも用いられることが多く、そのため豊潤なブルゴーニュの白ワインやシャンパンを生み出すシャルドネ種ブドウに例えられることも頷けます。また、山田錦を親にする開発米も多く、新潟の越淡麗、宮城の蔵の華、栃木の夢ささら、高知の吟の夢などがあります。

雄町~消滅寸前からの躍進~

御前酒

ふっくらとした酒質で人気の酒米「雄町」の誕生は江戸時代までさかのぼります。その時代では個人の熱心な農家が良い稲穂を選抜して改良に努めていました。その一人である岡山の岸本甚造が、鳥取の大山に行った折りに見つけ貰い受けた二本の稲穂を大切に選抜し生まれたのが雄町です。岸本の地元にちなんで「雄町」と呼ばれるようになりました。

心白が大きく吟醸酒向きの麹が造りやすい為、昭和初期には鑑評会用の米として高評価を得ていましたが、収量が低いため戦中に作付けが減少し消滅寸前までいきました。栽培が困難なお米なので、長い間幻の米といわれていましたが、岡山の蔵元らが熱心に働きかけた結果、現在では岡山県で作付面積 500 ㏊程まで回復しています。

晴天が多く台風も少ない岡山の穏やかな気候は晩生の雄町の栽培に最適で、全国の 90% 以上を栽培しており、特に赤磐産雄町はブランド米として有名です。

晩生らしく、大粒で熟度が高く心白も大きい米です。ふくよかな味わいで、飲みごたえのある味わいのお酒になります。果物に例えると熟れた巨峰のイメージでしょうか。

露葉風~奈良が復活させた幻の米~

風の森

奈良県で最も栽培されている産地品種銘柄米で、「純奈良産の酒」といえばこの米です。万葉集に出てきそうな太古のロマンを感じる名前ですが、戦後、愛知県で白露と短稈双葉を交配し開発され、親の名から露と葉をとって名付けられたものです。

当初、愛知、奈良、高知で栽培されていましたが、稲の背丈が短く栽培が困難で作付けが減り、幻の米といわれていました。2002年頃より奈良県内の栽培農家が適地である山岳地で栽培努力を重ねたことにより、奈良県オリジナル酒米として復活しました。高知県では露葉風を親に開発した「風鳴子」を産地品種銘柄としています。

心白が扁形しているため、タンパク質や栄養素の多い原料米となり、造り方によって多様な風味に仕上がるのが特徴です。米の旨味を引き出したしっかりとしたボディの酒を生み出します。果物にたとえると、干し柿やあわせ柿など多様な魅力をだす渋柿のようなイメージでしょうか。

酒米の持つ魅力

この3品種のほか、まだまだたくさんのお米が日本酒に醸されています。日本酒をお飲みになる時、是非ラベルをご覧になってください。そしてそこに書かれているお米の品種名に思いを馳せてみてください。きっとお酒の新たな魅力が見つかる事でしょう。大好きなブランドにさらに愛着を感じられ、一層美味しくお飲みいただけることと思います。

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