三輪で酒を醸すということ

神が鎮まり、多くの恵みを地域にもたらす三輪山。その裾にある大神神社では酒の神を、活日神社では杜氏の神様を祀っています。この地域は国造りの舞台とされ、多くの日本文化の源が息づいています。
そんな奈良・三輪の地で、360年以上にわたり酒造りを続けている今西酒造。14代蔵主の今西将之さんは、ただ「美味しい酒」を造ることにとどまらず、「酒の聖地・三輪の歴史、文化、風土を酒に乗せる」ことを大切にしています。
今西酒造の酒は、大きく三つのブランドに分けられます。
一つ目が、現蔵主が立ち上げたブランドで、ピュアで洗練された印象を持つひらがな表記の「みむろ杉 ろまんシリーズ」。二つ目が日本酒のルーツともいえる伝統的な酒母造りを基にした「みむろ杉 菩提酛シリーズ」。三つ目は、奈良県内で長年親しまれてきた銘柄、漢字表記の「三諸杉(みむろすぎ)」です。

これらのお酒は「サーマルタンク」「木桶仕込み」「生酒」「酒米品種の個性」「自社田の米」など製法や原料の特徴を活かし、レギュラーからプレミアムクラスまで多彩なラインアップが展開されています。
本蔵では、最先端の技術と設備による令和の酒造りの傍らで、木桶菩提酛による室町時代の酒造りがおこなわれています。最先端と室町時代が共存する蔵、それが今西酒造なのです。
今回は本蔵の見学とインタビューを踏まえ、今西酒造の酒造りについてご紹介します。
丁寧な手仕事で「とにかくピュアな酒を造る」

速醸酛で醸す「みむろ杉 ろまんシリーズ」は、すべてサーマルタンクで仕込まれます。徹底した衛生管理と鮮度にこだわった丁寧な酒造りは“透明感”を追究するためで、グレードが上がるごとに、その透明感が一層際立ちます。穏やかな香りと洗練された味わいの中に、三輪の清らかな水や風土が映し出され、特約店限定のため流通量は限られますが、全国で広く支持されるメインブランドです。
この酒造りの根底にあるのは「手間暇を惜しまない姿勢」。
たとえば、洗米では、すべて10㎏ずつに分けて丁寧に洗います。米ごとに水を替え、雑味の原因となる糠を徹底的に取り除く。
また、蒸しあがった米はすべて人の手で運びます。エアシューターを使えば1/10程度の労力で済むのですが、衛生管理を徹底するため、エアシューターは使わない。麹米も二階まで手作業で運び上げられ、麹造りも細やかに管理します。
また、最新の検査機器を備えた分析室では、毎日醪の状態を詳細に分析しています。
「毎日人間ドックで検査しているようなもの」と語る今西さん。「狙った点を目指した酒に仕上げる」ため、数値に基づいた精緻な酒造りがなされているのです。

これほどの手間は、一般的には出品酒のような特別な酒だけに費やすものですが、今西酒造ではすべての仕込みに対して実践しています。
「理想を現実にするにはどうすれば良いかを考え、実行しています」と語る今西さん。一切の妥協を排した酒造り。この繰り返しが「ろまんシリーズ」に代表される透明感のある味わいへとつながっているのです。
今西酒造の哲学 ―「清く、正しい 酒造り」

そのこだわりを支える醸造哲学は「清く、正しい 酒造り」。
たとえ手間がかかろうと、非効率であろうと「酒にとって正しいこと」を追究する。この揺るぎない姿勢は、仕込みのあらゆる場面に表れています。
蔵の入口にこんこんと湧き出る井戸水は、三輪山の清らかな伏流水。また、仕込み室の入口にはオゾン水生成装置があり、「100度の熱湯と同じ」効果のあるオゾン水で衛生管理を徹底しています。
神の恵みと最先端技術の恩恵を共に受けながら、その哲学を実践しているのです。

“手間をかけられる現実的な規模”で、“最高の設備環境”を用いて、“業界平均の3倍近い人員体制”をもって、すべての仕込みに理想を求めていく。
搾り終えた酒は、当日中に瓶詰め・火入れされることにより、生酒のような「究極のフレッシュさ」を実現。そして、火入れと生の違いが判らないほど、香りと味わいの鮮度を保ったまま届ける。
これも今西酒造が追究する「正しさ」の一つなのです。
また、「酒に合わせて人が動く」スタイルも特徴的です。醪の状態を毎日確認し、今西さんが搾るかどうか決める。人間の仕事に合わせるのではなく、酒にとって最適のタイミングを優先する。搾ると決まれば、蔵人たちはただちにそれぞれの持ち場で準備を開始します。この柔軟で迅速な対応は、十分な人員とチームワークがあってこそ成り立つものです。
酒の聖地で酒を醸すのは神様

「この神酒(みき)は 我が神酒ならず 倭(やまと)なす 大物主(おおものぬし)の醸みし神酒 幾久(いくひさ) 幾久」。この歌は、日本最初の杜氏とされる活日命(いくひのみこと)が詠んだものと伝えられています。
その意味は「この神酒は自分ではなく、三輪山に鎮まる“大物主大神”が醸されたものであり、神様の永遠の繁栄を願う」ということ。
こうした神を崇敬する心こそが、豊かな風土の源。三輪山の清らかな水で、神のご加護のもと、敬虔に正しい酒造りをおこなう。それこそが今西酒造の原点なのでしょう。
次回は、木桶菩提酛造りなど、未来に向けてさらに進化し続ける今西酒造の取り組みをご紹介します。




























