酒を知る日本酒の聖地・三輪で酒を醸す~三輪の歴史、文化、風土を酒に乗せる|みむろ杉(後編)

三輪山の神に敬意を捧げ、その清らかな水で酒を醸す。手間を惜しまぬ丁寧な仕事によって、透明感あふれる味わいに三輪の風土を映し出す。

この信念を貫きながら、今西酒造はこれからどこへ向かうのか。後編では、木桶仕込みの菩提酛など、歴史文化と革新を融合させた、新たな酒造りへの挑戦をご紹介します。

室町時代の酒造り「菩提酛造り」の復活

今西酒造

今西酒造がここ数年取り組みを進めてきた酒造りが「菩提酛造り」です。

これは、室町時代に奈良・正暦寺で確立された伝統的な酒母造りで、天然の乳酸菌や酵母の力を活かすもの。この技術は現在の酒造りの原点とされ、正暦寺は“清酒発祥の地”として知られています。

今西酒造

かつては酒の一大生産地として栄えましたが、時代とともにその規模を縮小し、酒造りは途絶えていました。しかし平成に入り、“奈良こそ清酒発祥の地”という原点を見直す活動が始まります。古い文献をひもとき、正暦寺に残る酵母や乳酸菌を採取・培養し、1999年ついに「正暦寺菩提酛」が復活を遂げました。

以来、毎年1月には正暦寺で「菩提酛清酒祭」が催され、伝統の技が再現されます。そして今西酒造も参加する「奈良菩提研」のメンバーによって「正暦寺菩提酛」純米酒が造られるのです。

木桶菩提酛蔵による挑戦

今西酒造

菩提酛は、生酛などと同様の自然派の酒造り。そのもたらす豊かな酸と複雑な味わいは、さらなる可能性を秘めています。しかも吉野杉の大樽を用いることで、三輪の風土を酒に映し出せる。そんな想いから、今西さんは2020年本蔵に「木桶菩提酛蔵」を新設しました。

蔵内には、吉野杉の大樽を東西南北に4基配置し、「木桶菩提酛造り」への挑戦が始まったのです。
木桶に住み着く微生物が発酵を旺盛にし、それをコントロールするには高度な技術と熟練が求められました。この「木桶菩提酛仕込み」をプレミアムラインとして展開しながら、技術の安定と試行錯誤を積み重ねていったのです。

今では安定して高品質の酒を醸せるようになり、手応えを感じた今西さんは菩提酛シリーズのラインアップを再編。従来のプレミアムラインに加え、より手に取りやすい価格帯の商品も充実させました。

今西酒造は、これまで馴染みの薄かった菩提酛を、もっと身近な存在にしていくことを目指しています。
「きれいな菩提酛を造る」ことによって、伝統をモダンなスタイルに再構築し、より多くの人にその魅力を届ける。そして、「木桶菩提酛蔵」での試行錯誤は「三輪伝承蔵」という形で結実し、その魅力をさらに力強く発信していくのです。

ナチュラルな乳酸を活かす

今西酒造

木桶菩提酛造りに取り組む中で、乳酸菌の研究においても成果が現れました。現在の酒造りで主流になっている速醸酛は、人工の乳酸を加えることで雑菌の繁殖を防ぎ、短期間で安定した酒母を造る手法です。これは合理的な技術である一方、自然志向や伝統回帰を目指す酒造りのイメージとは少し距離があります。

そこで今西酒造は、三輪の土地に根ざした乳酸菌を独自に選抜・培養し、それを活用する研究に取り組みました。単に乳酸を添加するのではなく、三輪由来の乳酸菌で育てた乳酸水を用いることで、三輪の風土を映した“自然派の速醸酛”という新しい価値が生まれるのです。

酒米造りを循環型農業に

今西酒造

今西酒造では5年前から、地域の休耕田を活用した自社田での酒米栽培に取り組んでおり、その規模を拡大しています。この自社田での経験をもとに、契約農家との連携も進め、現在では原料米の約85%が奈良県産と、地元の原料にこだわっています。

最高級とされる兵庫・吉川産「山田錦」を何度も仕込んだ経験を活かし、今では出品酒も奈良県産米のみで造るようになりました。

今西酒造

また、酒造りの副産物である酒粕は、奈良漬や飼料に活用されるだけでなく、肥料としての再活用も推進。自社田で施肥バランスの改良を重ね、3年かけて実用化に成功しました。そしてこの酒粕肥料を、生産した契約農家に還元し、循環させる活動に取り組んでいます。

また、精米時に出る米ぬかを再利用して紙を製作し、それを酒のラベルとして使用するという、全国的にも珍しいプロジェクトにも取り組んでいます。

酒造りを起点に三輪の恵みを未来につなぐ。今西酒造は、そんな思いを込めて、循環型農業の深化に力を注いでいるのです。

三輪の素晴らしさ、美しさを伝える酒

今西酒造

2011年、今西さんは28歳の若さで突然、生家の酒蔵を継ぐことになりました。酒造りの経験がない中で、ブランド設計や味覚の設計に果敢に挑戦し、国内外の鑑評会やコンペティションで数多くの高い評価を受け、現在の地位を築き上げたのです。

「やるべきことは決まっている」そう語る今西さんの醸造哲学と企業理念は一貫しており、常に精緻で研ぎ澄まされた酒造りを追究し続けています。

今西酒造

三輪山の恵みである水、神宿る杉、酒米、酒造技術、木桶、乳酸菌、菩提酛など、すべてがこの地の歴史・文化・風土と深く結びついています。

今西酒造は、こうした三輪の文脈の上に根ざした酒造りこだわり、伝統と革新を融合させながら、モダンで洗練された“新しいスタイルの地酒”を生み出していくのです。それは酒の聖地・三輪の誇り。

今西酒造はこれからもその価値を高め、魅力を放ち続けていくでしょう。

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