- 1. “酒の聖地”を巡る
- 2. 大神神社について
- 3. 大鳥居と二の鳥居
- 4. 手水舎と「しるしの神杉」
- 5. 巳の神杉
- 6. 拝殿と三ツ鳥居
- 7. 酒造の神様の起こり
- 8. 活日神社
- 9. 狭井神社の薬井戸
- 10. ささゆり
- 11. 三輪は多くの文化発祥の地
- 12. 山辺の道
- 13. 三輪のうま酒を楽しむ
酒の聖地”を巡る

新酒の季節になると、酒蔵の軒先に吊るされた杉玉が青々とした新しいものに掛け替えられます。この杉玉は、三輪山の神杉を酒造りのお守りとしたことに由来します。万葉集で「うま酒・三輪」と詠まれたように、奈良県三輪は古くから“酒の聖地”として知られてきました。
太古の祭祀で美酒を生み出した三輪山の神は“酒造の神様”と讃えられ、毎年11月14日には大神神社で「醸造安全祈願祭」が開催されます。
酒造りの安全と業界の繁栄を祈るこの祭りには、全国から多くの酒造関係者が集います。そして、大神神社の御神徳を慕う「酒栄講」の酒蔵には、杉玉が授与されるのです。
今回は、大神神社を中心に“酒の聖地”三輪を巡り、その魅力をご紹介します。
大神神社について

大神神社の歴史は、古代神話にまでさかのぼります。大国主神(オオクニヌシノカミ)の前に現れた大物主大神(オオモノヌシノオオカミ)は、「私を大和国の東にある山の頂に祀れば、国造りに協力しよう」と告げました。そして御諸山(三輪山)にお鎮まりになったことで、国造りが完成したと伝えられています。
大神神社は、三輪山そのものを御神体と拝む“原初の神祀り”の姿を今に伝える、日本最古の神社と謳われています。

御祭神・大物主大神は、人々の生活全般を守護する神様。広大な神域は三輪山を含めて約350ヘクタールに及び、参拝とともに“酒の聖地巡り”を楽しめるのも魅力です。
それでは、参道入口から順にご案内しましょう。
大鳥居と二の鳥居

国道沿いにそびえる大鳥居は日本最大級の大きさを誇ります。参道に入ると参拝用の駐車場が複数整備されており、アクセスも便利です。

広々とした参道を進んでいくと、菰樽(こもだる)がずらりと並ぶ二の鳥居が見えてきます。ここから先は神域。木立に包まれた厳かな参道を歩くと心が静まり、清らかな気持ちに満たされていきます。

手水舎と「しるしの神杉」

参道を進み、大神川に架かる「たいこ橋」を渡ると手水舎があります。水口は酒樽の上に鎮座する蛇の像で、まるで「巳の神」が参拝者を見守っているかのようです。
すぐ近くの覆屋の中には、三輪の七本杉のひとつ「しるしの神杉」が安置されており、根元だけになっても大切に保存され、今も静かに息づいています。

巳の神杉

拝殿手前にそびえる「巳の神杉」には神が姿を借りた蛇が宿るとされ、奉献台には生卵とお酒が供えられます。夏になると実際に「巳さん」が現れることもあり、その姿を目にすると御利益があるとか。倭迹迹日百襲姫命(ヤマトトトヒモモソヒメノミコト)が見た小さな蛇や、雄略天皇の時代に現れた大蛇など、様々なお姿が伝承されています。
巳は水の神であり、酒造りと深く結びつく存在。“酒の聖地”の守護神として、今も篤く信仰され続けているのです。

拝殿と三ツ鳥居

現在の拝殿は、寛文4年(1664年)に再建されたもので、重厚な大屋根と向拝(こうはい)が格式高く、360年を経た今もなお豪壮な姿を保っています。
向拝に吊るされた直径1.5m、重さ約200㎏の「大杉玉」は、「醸造安全祈願祭」の前日に新しいものに取り替えられます。杉玉は三輪山の杉枝を束ねて作られ、全国の酒蔵に配られる「しるしの杉玉」も、神社の職員がひとつずつ手作りし、各地へ届けるそうです。

拝殿が建つ以前から存在するとされる「三ツ鳥居」は結界として設けられたもの。その起源は不詳で、本殿に変わるものとして神聖視されてきました。そこから奥は禁足地とされ、人の立ち入りを許さぬ神聖な場所として拝することはかないません。
酒造の神様の起こり

第10代崇神天皇の御代、疫病や災いが続いた時、天皇の夢に神が現れ、祭礼をおこなうよう告げました。天皇は祭り用の御神酒を造るため高橋活日命を杜氏に任命したところ、活日命は一夜にして見事な美酒を醸し、たちまち疫病は静まり天下太平が訪れたのです。
天皇は大いに慶ばれ、活日命を褒め称えましたが、活日命は歌を詠み、「倭なす 大物主の醸(か)みしき神酒」と、大物主大神こそが酒を醸したと讃えました。以来、大神神社は「酒造の神様」として崇められるようになったのです。
この歌をもとに生まれた神楽が「うま酒みわの舞」。毎年「醸造安全祈願祭」で、厳かな奏楽に合わせ、巫女が瓶子(へいし)を捧げ持って舞う姿が奉納されます。また、全国から奉納された200本を超える銘酒が回廊に並ぶ「全国銘酒展」も催され、“酒の聖地”にふさわしい光景を楽しめます。
活日神社

拝殿から小径を進み、石段を上がった先に「活日神社」があります。御祭神は日本最初の杜氏とされる高橋活日命で、祠に続く参道には酒造関係者が献進した灯籠が並び、「杜氏の神様」として信仰されているのです。
狭井神社の薬井戸

活日神社から北に進むと、大物主大神の荒魂(あらみたま)を祀る「狭井神社」があり、病気平癒の神様として崇められています。境内には三輪山の登拝口があり、登拝には狭井神社での受付が必要です。

社殿の裏手には、万病に効く「薬井戸」があります。三輪山ふもとの多くの井戸はこの御神水と同じ水脈につながっており、酒造りやそうめん造りなど三輪の産業にとって欠かせない恵みでもあります。
ささゆり

かつては三輪山麓にも多く自生していたささゆり。現在は数が減り「ささゆり園」として保護されています。5月下旬頃からの花の季節には一般公開され、可憐な花が咲く様子が楽しめます。
また、このささゆりから採取・開発された「山乃神酵母」は、香り豊かな酒を醸します。もしかすると、活日命が醸した御神酒にも、ささゆり酵母が働いていたのかもしれません。
三輪は多くの文化発祥の地

国造りの舞台となった三輪は、酒や薬だけでなく、様々な文化が生まれた地でもあります。神の啓示によって生まれたそうめんは、日本の伝統食として発展しました。
また、大神神社の門前町として栄えた三輪は交通の要地であり、日本最古の市場「つばいち」や「三輪座」がにぎわいました。

三輪駅近くにある恵比寿神社は、市場の神としてその跡を残しています。さらに、桜井の船着場は仏教伝来の地、相撲神社は相撲発祥の地と伝えられ、その他にも歴史の始まりを物語る史跡が多く残されています。
山辺の道

大神神社の境内を通る「山辺の道」は、奈良から桜井を結ぶ日本最古の道。道沿いには悠久の歴史が息づき、日本の原風景に心癒されます。
並行してJR万葉まほろば線が走り、利用することで散策の範囲も広がる。長柄の大和神社、柳本の崇神天皇陵や長岳寺、巻向の箸墓古墳や相撲神社など、三輪周辺には見どころが満載。
随所に置かれた万葉歌碑をたどりながら、“日本文化の源流”に思いを馳せてはいかがでしょうか。
三輪のうま酒を楽しむ

狭井神社から西に進むと「大美和の社展望台」があり、四季折々の自然に囲まれながら大和盆地が一望できる絶景ポイントです。
大鳥居から約一時間の“酒の聖地巡り”は、ここでひとまず終わりとなります。参道へと戻ったあとは、ぜひ三輪のうま酒を味わってみてください。
三輪山の神がもたらす豊かさを、杯を傾けながら改めて実感していただけるはずです。

























