酒を知る旬の料理で春の酒を楽しむ

春を飲む

春を飲む

春は、新生活の門出を祝う宴会や花見など、お酒が美味しく飲める季節です。生命の息吹溢れる桜満開の公園や、希望に満ち溢れた清々しいホテル等のホールで、多くの方が集まり酒を楽しむ。例年なら当たり前の情景が今年も見られそうにありません。長引くコロナ禍で酒を伴う飲食が自粛となり、祝宴や日常のコミュニケーションツールとしての飲み会が行いづらい状態が続き、それは酒文化にも影を落としています。

確かにコロナの拡大抑制のためにはそういった規制は必要です。とはいっても、酒は古来から人の営みに寄り添い長い歴史を共に歩んできたもの。その酒が育んできた文化には深い意味があり、自ずと社会において大切な役割を担っています。こんな状況が長く続けば、その意味合いがどんどん色あせていき、単なる致酔飲料になってしまうのではと心配になります。

花見で飲むこと

花見で飲むこと

花見の起こりは、諸説あるのですが、稲作信仰に基づく「儀式」という見方があります。歴史学の和歌森太郎博士は、サクラの語源を次のように紹介しています。サクラのサは、サナエ(早苗)のサのように稲田の神霊を指し、クラはイワクラ ( 磐座 )のクラと同じで、神霊の依り鎮まる座を意味する(「花と日本人」)。つまり、春になると神霊が降りてきて木に座る。するとその木にサクラの花が咲く。人はその下で酒を飲むことを通じ神と交流し豊穣を祈る、花見にはそういう深い意味が含まれています。生活の節目に応じて酒を飲む行為は、縄文後期から弥生時代にかけて始まった稲作信仰を基に、日常生活の中に広くかかわっているのです。

酒の魅力を再認識する

酒の魅力を再認識する

飲食機会がコロナウィルスの感染源になりやすいという理由で、厳しい規制が課せられ、多くの飲食業に関わる方々が大変な思いをされています。

先日、とある機会で酒造好適米をいただきました。清酒の生産減少に伴う余剰米を飯米として消費する「産地応援企画」とのこと。栽培困難とされる酒造好適米の生産を維持するため、業界として取組まれているのです。一般に酒米が販売されることは珍しいので、実際食べてみることはとても興味深い。私は、炊くのではなく蒸してひねり餅として味わってみたいです。

業界関係者のご努力で何とか維持されていますが、酒経済が止まると酒文化も止まってしまいます。皆様、こんな時だからこそ、飲食に向き合いその魅力を再認識してみてはいかがかでしょうか。ご自宅でもお店で飲むような気持ちになっていただければと、料理人岡田様に旬のレシピをご紹介頂きました。花の下でなくても、家族や仲間と一緒でなくても、ご自宅で春の酒を旬の料理でお楽しみ下さい。

外飲みが再開する日を夢見つつ、心尽くして頂ける飲食店の皆様のありがたさを噛みしめましょう。最古の杜氏が酒を醸し疫病を退散させた伝承があるように、世界中の造り手が真心を尽くして酒を醸すことで、平穏な日々が一刻も早く訪れることを祈ります。

私は期待しているのです。コロナが終息すると、リバウンドするように空前の飲食ブームが来ると。そのブームに乗り遅れないように今から良質な酒ライフを楽しむことに備えるのも素敵です。

料理と酒を色のイメージで合わせる

料理と酒を色のイメージで合わせる

肉には赤ワイン、魚には白ワインとよく言われます。料理と酒の相性は多様です。「牡蠣にはシャブリ」、「フォワグラにはソーテルヌ」等良く言われるものは、確かに相性がピッタリですよね。赤い料理に赤いワイン、白い料理に白いワインといったように、料理と飲み物を外観の色で合わせることがあります。

例えば、ビーフステーキやトマトで煮込んだ料理、脂ののったトロには赤ワイン。白身魚のムニエル、野菜サラダ、鶏肉のクリーム煮には白ワインといった具合です。なんでも杓子定規に当てはまるわけではないと思いますが、色のイメージでも同様の合わせ方ができるのではと思います。

緑(畑)のイメージの料理には端麗な五百万石の吟醸酒など、赤(山)のイメージの料理には雄町の純米吟醸や熟成酒、青(海)の料理にはキレのある本醸造といった具合です。料理と酒の味わいのバランスにもよりますが、思いがけず素敵なペアリングが見つかるかもしれません。

お薦めの春のお酒

【 紀土 純米吟醸 春ノ薫風 】

紀土 純米吟醸 春ノ薫風

和歌山県/平和酒造の春限定の純米吟醸で、五百万石を使用したフルーティで芳醇なお酒です。シンプルなラベルですが、さりげなくエンボスで KID のロゴが入っているのが印象的です。

外観は、澄み切った輝きのあるクリスタルで、酵母の残った生酒だからこそ丹念にろ過してある為でしょうか。香りはフルーティで華やか、まだ若く少し硬い桃のような印象があります。口当たりは五百万石らしくスムーズで、優しい甘みとフルーツの皮から来るような苦味が広がっていき、グラーブの白ワインのような印象を持ちます。山菜のようなえぐみはなく、春キャベツやアスパラガス、緑豆のような甘苦さが余韻として残り、心地よい。その甘苦さと酸味は特徴的で、これが紀州の風土なのかとふと思うと、なるほど梅のように感じてきます。

春の旬の料理と全般的に合う酒だと思うのですが、特にスナップえんどうの甘味とのペアリングはぜひ試してみたいです。また、旬はまだ先ですが、青梅の翡翠煮 ( 蜜煮 ) など、紀州の風土と楽しむペアリングも興味深いです。

【 みむろ杉 純米吟醸 おりがらみ 華きゅん 】

みむろ杉 純米吟醸 おりがらみ 華きゅん

奈良県/今西酒造の春限定の純米吟醸雄町生酒。みむろ杉のラベルは、いずれも硬派で男前な印象があるのですが、この華きゅんはとても可愛く春らしいラベルです。

植物の春の息吹きから生じる水蒸気が大気中で凝縮して白っぽくなる。そんな春霞のような無濾過おりがらみの生酒。ふくよかな味わいの酒米、雄町を低温でじっくり醸した酒らしく、外観からもいかにも濃醇さを感じます。力強い麹によってしっかりと米が溶けた、パウダー状のきめ細かなおりはシルキーで高貴な印象があります。

おりがらみ生酒らしい華やかな香り。吟醸生酒特有のメロンのような果実香も穏やかで、おりがらみ特有の酒粕のような香りも優しい。口当たりは柔らかく、微かな炭酸ガスの繊細な刺激が心地よい。穏やかな甘味のあとに、爽やかな酸が米の旨味と共に春の風のように駆け抜けていく。パッと咲いて散っていく、正に桜の花のような印象です。

華やいできゅん、そんなイメージでネーミングされたのでしょうか。ドライに切れていく感じではなく、ふわっと来てスッと消える。低温長期熟成による繊細かつ濃醇な味わいをぜひお楽しみください。これは旨味と甘味が凝縮したホタルイカと是非合わせてみたいです。

【 あたごのまつ 純米吟醸 はるこい 】

あたごのまつ 純米吟醸 はるこい

フルーティで綺麗な味わいで人気の宮城県/新澤醸造所の桃色活性清酒。宮城県産ひとめぼれを 60%精米した純米吟醸。アルコール度数は 11%。

~縦置き、開栓にご注意ください~

活性清酒は生きた酵母が残っているため、瓶内で発酵し炭酸ガスが発生しています。そのため、キャップ天面にガス抜き穴が開いており、瓶を横にするとお酒がこぼれるのでご注意ください。また、開栓時に中身が噴き出ることがあるため、ガス抜き穴に爪楊枝などを刺してガスを抜いてから、布などをかぶせて開けると良いです。

  • あたごのまつ純米吟醸はるこい
  • あたごのまつ純米吟醸はるこい

~ティスティングコメント~

イチゴミルクを思わせる外観。笊でこした生酒なので濁りがあり、上部に浮かんだストロベリーシェイクのような濃い泡がいかにも美味しそう。泡が固まって液体が出にくいときはマドラー等で「櫂入れ」のように泡を崩すと良い。

香りは甘酸っぱくフルーティ。桃の香りや吟醸香もあるが、全体に調和している印象です。また、麹由来のキノコの香りはフレッシュな生椎茸や生木耳のよう。桜餅を想起させる春の印象があります。滑らかな口当たりで、しっかりした酸と優しい甘さが広がる。発酵で生じたガスがシュワッと心地よい。

あたごのまつ純米吟醸はるこい

このままでも美味しいですが、「ベリーニ」のようにロゼスパークリングワインで割った「酒ベリーニ」で味変してみてはいかがでしょう。酒︓ワインは 6:4 ~ 7:3 が目安です。ワインの酸、炭酸、香りは酒より強いので、控えめに割ることで活性清酒の重厚な印象を和らげ、より華やかで軽快に楽しめます。

【 宮寒梅 純米吟醸 SPRINGTIME 】

宮寒梅 純米吟醸 SPRINGTIME

この「SPRINGTIME」では寒梅酒造オリジナルの花酵母「ミヤツバキ酵母」を使用し醸されています。ミヤツバキ酵母とは寒梅酒造蔵に咲いた椿の花から奇跡的に清酒造りに適した酵母が発見され、7 年に渡り培養してきた念願の酵母になります。

ふわりと柔らかな甘みの先に微かな酸味がとけ広がる酵母由来の優しい味わいに仕上がりました。アルコール度数も 12度と低アルコールに仕上がっております。ふだん日本酒に親しんでいない方にも是非とも薦めたい逸品です。

春に頂きたいおつまみレシピ