- 1.お気に入りの食前酒「風の森」
- 2.日本最古の柑橘
- 3.変化するストレート
- 4.KIKKAジンリッキー(オレンジ/ライム/すだち/レモン/ゆず)
- 5.KIKKAゆず茶
- 6.KIKKAジントニック・スノースタイル
- 7.KIKKA秋津穂マティーニ
- 8.KIKKAオレンジフローズン
今回の試飲は思わぬ偶然や、個人的な思い入れが交錯し、忘れられない体験となりました。
長い記事になりますが、お付き合いいただけましたら嬉しいです。
お気に入りの食前酒「風の森」
私は大学卒業後約10年間ドイツとフランスで暮らした後、1999年に帰国しました。そして長い間楽しむことが出来なかった日本酒にはまり、地元和歌山のお酒から始めて有名な銘柄はほとんど試飲しました。
私は甘口のお酒が苦手ですが、唯一美味しいと思って飲むことが出来たお酒がʻ風の森ʼでした。微発泡酒が好きだということもあると思いますが、お気に入りの食前酒として愛飲してきました。
今回試飲させていただくKIKKA GINの製造元、大和蒸溜所の母体は、300年以上続く酒蔵でありʻ風の森ʼで有名な油長酒造です。
日本最古の柑橘
KIKKA GINに使用されているボタニカルはたったの3種類。
大和橘、大和当帰、ジュニパーベリー。
この内ジュニパーベリーはジンと名乗る資格を得るために必須のボタニカルなので、実質特徴的なボタニカルは2種類です。
これはすごいと思いました。試飲する前から期待でワクワクします。
そしてKIKKA GINの感想を書こうと試飲を始めた時、思わぬ偶然に恵まれます。
原料の一つである大和橘は日本最古の柑橘で、みかんの原木です。
この大和橘を約2000年も前に垂仁天皇の勅命を受けて日本に持ち帰ったʻ田道間守ʼ をテーマにした交響曲をアレンジすることになりました。
私事で恐縮ですが、昨年は和歌山県で国民文化祭が開催され、私は3つのイベントに参加しました。
そのうちの一つの演奏会でʻ田道間守ʼ をテーマにした交響曲「田道間守の歌」が演奏されたのですが、バレエを入れるために演奏時間を長くして欲しいとのことで私が編曲させていただきました。
日本書紀によれば、垂仁天皇90年(西暦61年)に田道間守は天皇の名により、不老不死の妙菓とされる橘(当時は非時香菓〈ときじくのかぐのこのみ=永遠に香っている果実〉と呼ばれていた。)を求め常世の国に派遣されました。
10年後に探していた橘を持って帰りますが、前の年に垂仁天皇が崩御していたのを知り、嘆き悲しみ天皇の陵で亡くなったとされています。
田道間守が初めて橘を移植したʻ六本樹の丘ʼ は、和歌山県海南市にある橘本神社の旧社地で、田道間守はこの神社の主祭神として祭られています。
この神社では毎年4月の第1日曜日に全国銘菓奉献祭が開催され全国からいろんなお菓子が奉納されます。2010年に行われたお祭りの際に私はここで「田道間守の歌」を指揮しました。
上記の事由で、私はかなりKIKKA GINに対して深い思い入れを抱いていました。
前置きが長くなってしまいましたが、試飲の感想に移ります。
変化するストレート
まずはストレートで頂きます。
顔を杯に近づけると、上品だが濃厚な柑橘類の香りがたってきます。鼻腔の中で香り成分がはじけているような感じ。これだけでかなりの量のボタニカルが抽出されていることが分かります。
その香りとときには同調するように、ときには自己主張するかのように、ハーブのような個性的な香りが感じられます。これが‘大和当帰’の香りかなと思いました。
顔を近づけたり遠ざけたりしながら香りを楽しんでいると、濃厚な香りにもかかわらずすがすがしい気分になってきました。
ではひとくち口に含んでみます。
さすがにアルコール分59%です。覚悟はしていましたが強烈なアルコールアタックを感じました。しかし、そのアルコールアタックに舌が幻惑されることなく、柑橘系の甘味と旨味が凝縮された風味が口の中でとろけていきます。
香りを楽しんだ時と同じように、濃厚だが爽やかな後味を置いていきました。
ふたくち目からは舌が強いアルコールに慣れて、KIKKA GIN本来の風味がすぐに口の中に広がってきました。と同時に、頭の中がオレンジ色一色に染まっていくような感じを覚えました。ジンなのでジェニパーベリーが入っているのですが、私にはその風味はほとんど感じられず、強烈な風味にどこか知らないところへ連れていかれそうな気分になります。
何度か杯を重ねてくると、落ち着いて風味を楽しめるようになってきました。
「これでもかあ!」というくらい濃厚な柑橘類の風味がまず一瞬で口の中に広がり、華やかにはじける。
そして甘味と旨味の凝縮したKIKKA GINの風味の核のようなものが現れる。それが徐々にすがすがしく消えていく。こんな感じです。
頭の中でモーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」の前奏曲が流れてきました。
濃厚でドラマチックな出だしの後、楽しく軽妙なメロディに変わっていくところがKIKKA GINの風味と似ているので、脳が無意識のうちに反応したのでしょう。
ストレートでこれだけ楽しめるお酒をカクテルにする必要性はあるのかと思いましたが、59%のお酒を毎回ストレートで飲むとなるとかなり健康に悪いと思われるので、カクテル作りに入ります。
KIKKAジンリッキー(オレンジ)
まずはジンリッキーです。
視覚と味覚を合わせるためにスライスしたオレンジを入れてみました。
美味しい!最初のひとくちから濃厚な柑橘系の風味が、心地よい甘味を伴って口の中に広がってきます。
見てください。やはりかなりの量のボタニカルが抽出されているので、アルコールには溶けるが水には溶けきれない成分が出てきて白く濁っています。不思議なことに遠くにミルクの風味が感じられました。
なお今回カクテルをつくるにあたり、本来ロング・ドリンク用のグラスに入れるべきところですが、あえて大きめのシャンパングラスを使用しました。
感覚的な説明で申し訳ありませんが、最初に口に含んだ時に頭に浮かんだのが、先述のモーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」の前奏曲と皇居の松の間でした。
私は皇居の松の間はそれ自体が世界に誇る日本文化だと思っています。外国の宮殿のようなシャンデリアなどの派手な照明や装飾品はありませんが、静謐を極めた簡素な空間に内的な華やかさを感じます。
KIKKA GINが持つ味の華やかさはそれに近いと感じました。たくさんのボタニカルがブレンドされたジンの持つ華やかさとは異なります。
KIKKA GINの風味には高級感があり、だからこそ直感的に大きめのシャンパングラスで飲みたいと思ったのです。
< 材料 >
KIKKA GIN 40ml
ソーダ(炭酸水) 適量
オレンジ
氷
< 作り方 >
1. グラスに氷を入れる。
2. KIKKA GIN 、ソーダを入れ軽くリフトした後、厚めにスライスしたオレンジを入れる。
圧倒的にジンリッキーが美味しかったので中に入れる柑橘類を変えてみたらどうなるだろうと興味が湧いてきました。ジンリッキーのバリエーションをいくつか試してみます。
KIKKAジンリッキー(ライム)
高級品という印象のカクテルになりました。味の広がり方、後味に格上のスパークリングワインを飲んだときのような高級感があります。しっとりと口中に旨味が広がっていくような感じでした。
KIKKAジンリッキー(すだち)
個性は保ったまま自己主張が控えめなカクテルになりました。
なぜかかつおのたたきが食べたくなったので、買ってきてこの「すだちバージョン」で頂きました。自己主張が穏やかになった分、食材の味を邪魔することなく、とても美味しいコンビネーションでした。
KIKKAジンリッキー(レモン)
KIKKA GINが本来持っている個性そのままを全体的にやわらかくした感じでした。すだちバージョン同様、食中酒としても最適だと思いました。
KIKKAジンリッキー(ゆず)
やはり香りがいい!
思ったより落ち着いた感じで口当たりが軽く、何杯でもさくっと飲める感じのカクテルになりました。
KIKKAゆず茶
ゆずといえば、ホットで飲んでみたくなります。しっとりと喉を伝っていく感覚がたまりませんでした。
< 材料 >
KIKKA GIN 40ml
ゆず 1個
熱湯 適量
< 作り方 >
1. 耐熱グラスにKIKKA GIN、ゆずを一個分絞って入れ、熱湯でグラスを満たす。
2. 好みでゆずの皮を入れる。
KIKKAジントニック・スノースタイル
次はジントニック
ジンリッキーの炭酸の代わりにトニックウォーター、オレンジの代わりに定番のライムで作ってみました。
これはKIKKA GINの甘味、ボタニカルの風味とトニックウォーターの甘味、柑橘類の果皮の風味がバッティングして複雑な味になりました。
いっそのことその複雑さをもっと活かしてやろうと思い、塩でスノースタイルにしたらインパクトのあるカクテルになりました。
< 材料 >
KIKKA GIN 40ml
トニックウォーター 適量
ライム
氷
< 作り方 >
1. 塩でスノースタイルにしたグラスに氷を入れKIKKA GIN、カットライムを入れステアする。
2. トニックウォーターでグラスを満たして軽くリフトする。
KIKKA秋津穂マティーニ
ここまできたら、KIKKA GINは他のお酒とは混ぜないで味わうのが一番だと確信したのですが、そこはバーテンダーの性でいろいろなものをブレンドして美味しいカクテルが出来ないかと試したくなってきます。
ジンベースの代表的カクテルといえばやはり ʻマティーニʼ でしょう。
ここはひとつ何かスペシャルなものを作りたいと思い、KIKKA GINの製造元の母体である油長酒造の「風の森」をベルモットの代わり使ってみました。
「風の森」は飲みなれたスタンダードな ʻ秋津穂657ʼ を使ってみました。
風の森はわずかに残る炭酸ガスとやさしい甘味が特徴で、口に含むと爽やかな香りがさっと鼻に抜けていきます。ボリューム感のある味わいの後、心地よい酸味は余韻として残ります。
ワクワクしながら試飲しました。
少しとろっとしたボリュームたっぷりの存在感を舌に残し、香りは爽やかに鼻腔から抜けていきます。アルコール分が高いせいもあって1杯でどしーっとくる感じです。
インパクトがあって美味しいのですが、もう少し万人受けするように個性を保ちつつ、ロングカクテル風にアレンジできないかと思い、クラッシュアイスの中にKIKKA GIN 秋津穂マティーニを注いでみました。
氷が徐々に解けていく時の流れの中で、ゆっくりと味わってみると本当に美味しかった。大変贅沢な時間を過ごしている気分になりました。
< 材料 >
KIKKA GIN
風の森(秋津穂657)
氷
レモン・ピール
お好みでオリーブ
< 作り方 >
1. 冷えたミキシンググラス(なければ大き目のグラスで代用可)に氷、風の森(秋津穂657)とKIKKA GINを2:3の割合で入れステアする。
2. カクテルグラスに注ぎ、レモン・ピールする。好みでオリーブを入れる。
風の森とKIKKA GINの割合はいろいろと試してみましたが、二つのお酒の個性を保ちつつ風味がまとまるのは2:3の割合でした。
ただ、これは私の舌にはそう感じるというだけですので、皆さんご自分の最適な割合を見つけて楽しんでいただけたら嬉しいです。
KIKKAオレンジフローズン
最後にもう一つシンプルで美味しいものを紹介します。
オレンジジュースと割ってもとても美味しかったのですが、それをフローズンスタイルにしたものです。
すごくおしゃれな感じで飲みやすくとても気に入っています。お客様にも大好評のカクテルです。
< 材料 >
KIKKA GIN 40ml
オレンジジュース 80ml
氷 5個
オレンジ 適量
< 作り方 >
1. 氷、オレンジジュース、KIKKA GINをミキサーにかけてグラスに注ぐ。
2. スライスしたオレンジを飾る。
さて、この「KIKKA GIN」。個性が強く高度に完成されたジンですが、他の素材を受けいれる許容範囲が大きいことが分かりました。
ボタニカルが3種類しか入っていないからかも知れません。
最近はお客様に「何か美味しいお酒をお願いします。」と聞かれたら、まずKIKKA GINのロックを小さめのグラスでお出ししています。 皆さん最初は「キツーッ」と言われますが、時間をかけて最後まで飲んでいかれます。
私個人的にはKIKKA GINはストレート/ロックから、薄めのソーダ割の間の中でその濃淡を楽しむお酒だと思っていますが、カクテルのベースとしても無限の可能性を秘めた素晴らしいお酒です。
これからもいろんな材料とブレンドして美味しいカクテルを作ってみたいと思います。