今回は栃木県にある小林酒造さんの「鳳凰美田 J-SAKE 2016ミズナラ」をいただきました。
小林酒造さんは「吟醸酒を造らせると右に出るものはいない」と言われているそう。
日光水系の良質な地下水を使って作られたお米からできたお酒です。
ジャパニーズオーク「ミズナラ」
さて、ミズナラといえばサントリーの山崎、響もミズナラ樽を使用しています。シーバズリーガル ミズナラも有名ですね。
ミズナラは楢の木の一種で、水分が多く燃えにくいことからミズナラと呼ばれます。
白檀や伽羅を思わせる独特な香木の香りが特徴です。
ミズナラ樽は近年「ジャパニーズオーク」と呼ばれ、世界中で注目を集めています。
鳳凰美田のミズナラ樽はサントリーやニッカで使用している北海道産のミズナラではなく、日光産のミズナラを使用しています。
樹齢100年くらいで天日干し20年くらいのミズナラオークです。
圧倒的な香り
まず香りを頂きます。
圧倒的な深く甘い樽香の中に高級なお香の香りも感じます。
レーズンバターを想起させるような美味しそうな香りです。
42度のアルコールの刺激臭をはるかに凌駕する深く甘い樽の香り・・・・今までに体験したことのない強烈に個性的な香りです。
もしアルコール度数を知らないで飲むとしたら、それほど度数は高くないと思うだろうな、というくらいアルコールの刺激臭は感じません。
「牧神の午後への前奏曲」
一口、口に含んでみます。
コクのある丸みを帯びた柔らかな甘味と、心地よいアルコールアタックがドンと口の中で跳ねます。
柔らかな甘味はきれよくあっという間に消え、アルコールの心地よい刺激が余韻を残しながらゆっくりフェイドアウトしていきます。
異次元の世界に連れていかれそうな不思議な美味しさです。
盃にこのお酒を注いで香りを楽しみ、口に含んで風味を楽しんだ後グイっと飲み干す。
味を楽しむという単純なものではなく、一連の行為が一つのドラマの様に感じられてやみつきになってしまい、あっという間にボトル三分の二を飲み干してしまいました。
酔いがまわって味覚が鈍くなっても、この酒の強烈な個性は舌にドンと乗っかってきます。
杯を重ねてかなり良い気分になってくると、頭の中には棟方志功の丸みを帯びた女性の版画が出てきて、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が流れてきました。
話しは変わりますが、8月の初めに日光に行く機会がありました。
日光東照宮の近くに宿をとったのですが、洗面所に「この水は飲めます。日光の美味しいお水をお楽しみください。」と書かれたプレートが貼ってありました。
飲んでみると本当に美味しかったです。
こういう美味しいお水を使って「鳳凰美田」は作られているんだと思うと、大変感慨深いものがありました。
残念ながら蔵元さんは訪問できませんでしたが、家族で美味しい水を堪能した楽しい旅行になりました。
オンリーワンのストレート
さてとても個性的で美味しいお酒ということはわかったのですがこれを使ってカクテルを作るとなると・・・
まず最初のひと口目でこれはカクテルの材料にはならないなと思いました。
このお酒の不思議な美味しさはこれ自体で完結していて、
混ぜ物を許さないといった毅然とした態度で自己主張してくるのです。
試飲期間中に20種近くのカクテルを試作しましたが、圧倒的な個性のためどれもうまくいきませんでした。
水割りでさえミネラル分と反応してかすかな違和感を感じます。
結局このお酒の美味さを一番引き立てるのは、
ソーダのチェイサーを横において、ストレートで愉しむというやり方ということに行きつきました。
私が今の店を引き継いで今年でちょうど10年になりますが、師と仰いでいる先輩のバーテンダーに教えてもらったアドバイスを思い出しました。
「ナンバーワンになるよりよりオンリーワンになれ!」
ナンバーワンというのは比較の世界であり、他のものと比べたなかで一番という意味です。
しかしオンリーワンというのは他と比べようがなく他に優れたものが出てこようと負けることのない存在です。
私は「鳳凰美田 J-SAKE 2016ミズナラ」を口にする度にこの言葉を思い起こすでしょう。