鳳凰美田日光シリーズの発売に際し、製造元である小林酒造を訪れ、小林正樹専務から伺った貴重なお話をもとにしたこの記事も、今回が最終回になります。
鳳凰美田ならではの独創的な上槽をご紹介するとともに、伝統蔵の魅力を総まとめします。
上槽~清酒が生まれる瞬間
上槽とは、醪を清酒と酒粕に分ける工程のことで、正式には「こす」と呼びます。
一般的に「搾る」といった方が判りやすいですが、その手段は定められておらず、様々な方法があります。
伝統的なものは槽(ふね)と呼ばれる道具を用いる方法です。
浴槽のような大きな直方体の容器の中に、醪を入れた酒袋を積み重ね、圧を掛けて搾ります。
鳳凰美田では近代的な自動圧搾機を用いるのですが、一般的な巨大なアコーデオン状の横型ではなく、竪型のものです。
酒袋と圧搾版をミルフィーユのように交互に積み重ねたもので、槽に近い構造です。
柔らかく圧を掛けることで繊細な仕事ができ、より綺麗に搾ることへのこだわりを感じます。
ゆっくりとプレスされると酒袋と圧搾版の間から原酒が滴り落ちてきます。
溢れる原酒の華やかな香りが蔵内に満たされ、その滴り落ちる原酒をグラスで受けて試飲することは格別。
華やかで甘やかな香り、とろとろの口当たりが満喫できる夢のような瞬間です。
一般的には上槽してすぐに火入れするのですが、鳳凰美田ではサーマルタンクの極低温で静置、安定化させることで、搾りたてそのまま、鳳凰美田ならではの生酒の美味しさを楽しむことができるのです。
伝統蔵がテロワールを結ぶ
近世の日本の醸造技術は世界的にも高い水準でしたが、ほとんど科学的に解明されていない神秘的なものでした。
この産業技術は形にすることが困難で、伝統蔵の存在によって継承されているのです。
現在では、微生物の働きや温度管理など科学的な研究が進み、そのメカニズムが幾分か明らかにされてはいますが、
いまだ神秘に包まれた部分もあり、伝統蔵の機能は今もなお意義深いものです。
ですから科学的な最新設備であっても、櫂棒やスコップなどと同じ、効率化を図るための補助的な道具の一つなのです。
鳳凰美田では、自動圧搾機やサーマルタンクを活用する一方で、手作業による伝統蔵のスタイルは頑としてぶらしません。
水、米、微生物、自然、歴史、文化など、テロワールの様々な要素。伝統蔵はこれらのものを結び、醸し上げる唯一無二のものなのです。
門外不出の酒造技術、神秘的な空気が産み出す凛とした空気。ここには酒造りの真髄が息づいています。
厳しい手作業の先にある恵み
冷たい水、高温の蒸気、重く熱い蒸米、高所での力仕事。人による手作業の酒造りは多くの厳しさを伴います。
その厳しさは恵みと共生するもので、日光の山岳信仰と重なります。
畏れ多き山の神がもたらしてくれた水や米を、繊細な手作業によって醸す。まさに酒造りは神の恵み。
それを守っていくことは蔵のプライドであり、生きざまなのです。そう思うと、小林専務のこの言葉に改めて感銘し、深く心に染み入ります。
「蔵の立つ土地を感じ、そこで育った自分を感じることが大切だと気付くこと。
そして長年掛けてどこまでも向き合い、その積み重ねがそのまま酒質となると思います。」
伝統蔵とは、近代科学の及ばない神域を取りまとめ結び、酒造りにつなげるといった特別な存在なのです。
鳥料理 いつもの処
JR小山駅から少し北に進み、路地を入ったところに「鳥料理 いつもの処」があります。
古くからの地元の取引先とのことで、小林酒造の稀少なレトロ看板を見ることができます。
そこに記されたブランド名は「金賞」。
このブランドは、戦後小林酒造が復活した際に連続金賞を受賞したことを記念して命名された誉れあるもの。
現在は鳳凰美田にブランドを一本化しているので、幻の看板といっていいでしょう。
店内には老齢のご夫婦がおられ、にこやかに迎えて頂きました。
Ⅼ字型のカウンターと小あがりがある昔ながらの落ち着いた焼き鳥屋さん。カウンターの中ではご主人は焼き台の前に立ち、じっくりと焼き鳥を焼いておられます。
継ぎ足しで作っておられるのでしょうか、旨味が凝縮した少し甘めのタレが焼き鳥に絡み、鳳凰美田の柔らかな口当たりにぴったり。
焼きたての鳥かわがジューシーでとても美味しく、特にお薦めです。
手作業で丁寧に仕上げていくことはモノづくりの原点です。「いつもの処」という屋号、古くから大切に使われている看板、継ぎ足しで大切に使い続けられるタレ。伝統蔵の酒造りに通じる精神がここにも見ることができました。
日光ブランドを未来につなぐ
地域ブランド日光の核ブランドのひとつ、鳳凰美田日光シリーズ。
二社一寺に帰属する御神水やミズナラ材を樽に加工、調達する。また、ミズナラの植樹や地域の学校と連携した酒米開発にも取り組み、次の世代につないでいく。
地域に生まれ、地域に貢献していく思いが地域ブランドを育てるのです。
リキュール蔵で熟成されている200樽を超えるお酒のように、日光ブランドは年月とともにその厚みを増し、その魅力を高めていくことでしょう。
伝統と人、自然と信仰。時間軸をも含めたテロワールがここに整えられるのです。
鳳凰美田にはまだまだ語りつくせない魅力があります。
日光の駅舎、二社一寺、御神水、数々の名瀑。温泉や奥日光の大自然。
是非日光の地を訪れ、鳳凰美田のテロワールを体感していただければ、語りつくせぬ魅力に触れていただけるのではと思います。