酒を楽しむ旬の料理で酒を楽しむ~夏~

縄文人、万葉貴族、戦国武将も食べていた鰹

旬の料理で酒を楽しむ

鰹は、鯛などと同じく、古くから重要な食料として馴染み深い魚です。

~水江の浦の島子が 鰹釣り鯛釣り誇り 七日まで家に来ずて~
このように万葉集の歌に登場したり、縄文時代の貝塚から鰹の骨が出土したり、古くから食用とされていたと考えられています。

また、奈良時代の延喜式には「堅魚」と記載されており、その時代から傷みやすい鰹を乾燥させて節にして保存する技術があったようです。
戦国時代には保存がきく栄養価の高い携帯食として好まれ、武家では「勝つ武士」と縁起を担ぎ、正月のお供えやお祝いの引き出物として珍重されるようになっていきました。

旬の料理で酒を楽しむ

「堅い魚」の名前の通り、鰹は獲れたては硬くておいしくないとされ、古くから乾燥させた物を煮て食べる習慣がありました。乾燥の方法は当初は天日干しでしたが、雨天の日などは炙って乾燥させるようになり、それがさらに発達し薪で燻して乾かす薫乾製法になり、カビ付け法も取り入れて現在の鰹節になっていきました。

江戸時代に入ったころ、紀州の鰹節は「熊野節」と呼ばれ名を馳せ、そして紀州の角屋甚太郎が鰹の漁法と「熊野節」を土佐に伝承し、鰹文化がさらに発達していくことになったのです。

泳ぐスピードは100m9秒台

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鰹は日本の太平洋側を北へ南へと高速で回遊しています。ルソン島近海や中部太平洋からイワシを追い日本近海に達し、夏は北海道沿岸まで北上します。
好む水温は17~29度とされ、気温上昇に応じて春先から北上を開始するのです。
鹿児島、高知、和歌山、三重と順番に進み、5月頃に小田原や鎌倉に達します。夏には三陸沖や北海道沿岸まで到達し、そこで餌を食べ丸々と太り南下します。

9〜10月に三陸沖で採れる鰹は脂が乗っていてしかも高額ではなく、「戻り鰹」として親しまれ、生食が美味しい。
脂が乗っているため、メルローやピノノワール等赤ワインに合わせても楽しめます。

鰹は学名「カツオヌスペラミス」というサバ科の魚で、学名からも日本食との深い関わりを感じます。
体長は大きいものは1メートルを越え、時速30~40キロで泳ぎます。そのため、鱗は退化しヒレの辺りに少し残るだけです。

鮪と同じように、ヒレは体にぴったりと畳み込まれ、水の抵抗を受けない流線形になります。時速40キロで100m泳ぐと9秒ちょうどで、ボルト選手や桐生選手より速いと考えると凄いですね。

いなせな江戸っ子に大人気

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江戸後期には、江戸は大消費地として栄えていたのですが、まだまだ冷蔵技術がなく、食材の保存に関して様々な工夫がなされていました。
鮪は漬けに、海老は茹でて、穴子は煮て。保存性を高める技術はこの時代に発達したのです。
酢〆や昆布〆等もそう。もったいない話ですが、脂の多いトロは保存がきかない為、すぐ捨てられていたようです。

ほんのりと甘い香りがあり、身のしまりが良く、脂の乗りはほどほどでさっぱりとした味わいが人気の初鰹。

「鎌倉を 生きて出でけむ 初鰹」
と松尾芭蕉が読んだように、鎌倉で獲れた初鰹を生きの良いまま飛脚が運ぶ姿は初夏の江戸の風物詩でした。

初物を誰よりも早く気っ風良く食べるのが粋でいなせな江戸っ子にぴったりで、好まれたのでしょう。
当時、初鰹の平均相場は1本5200文で、長屋の家賃が500文/月ぐらいでしたのでその高額ぶりには驚かされます。

歌舞伎役者が3両もの大金を払って大部屋にふるまったり、江戸っ子を熱く魅了した初鰹は、まさに超高級食材として一世風靡したのです。

和歌山から進化する漁法

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江戸で初鰹がもてはやされるようになった頃、小田原や外房の漁は竿釣りか曳網でした。
鰹は泳ぐことで呼吸をしているので、止まると死んでしまいます。ですから、曳網漁は網のなかで泳げない鰹が呼吸が出来なくなり、苦しみながら死ぬので鮮度が十分に保てません。

残念ながら、それでは江戸っ子をうならせることはできないです。

一本釣りは、諸説あるのですが、1600年頃和歌山の印南で始まったと言われています。それが伊代、土佐に伝わり、日向や鹿児島に伝わっていったのです。

一本釣りの良さは生きたまま船に釣り上げることで鮮度が保たれる点です。但し、勢い良く釣り上げられた鰹は船に投げ上げられ、甲板でバタバタ跳ねて身を強打して死んでいくものもあります。
しかしながら江戸後期から鰹消費が急増したこともあって、効率のよい漁法として広がりました。

時代が進み20世紀になったころ、現在最も鮮度が保てる漁法とされるケンケン漁がハワイに移住した和歌山県串本町の人たちによって持ち帰られました。
ケンケン漁とはトローリング漁法の一種で、船の左右に伸ばした竿に数本の釣糸をつけ、船を走らせながら釣糸を引いていく独特のスタイルです。

この漁法では、釣り上げた鰹をすぐ活き締めにして血抜きをし、氷水に入れ短時間で水揚げするため、その鮮度は抜群なのです。
この漁法で獲られた鰹は漁獲量が少なく、知る人ぞ知る幻の逸品とされ、串本の「しょらさん鰹」や、すさみの「ケンケン鰹」のように地域ブランドとして大切に守られています。

ブランド鰹を贅沢にお取り寄せ

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傷みやすい鰹はいかに鮮度保持するかが重要です。ブランド鰹はただちに水揚げされ市場に届けられ、それを空輸で取り寄せ味わうことができる、なんとも贅沢な逸品です。

石巻の「金華かつお」は、三陸沖で餌を一杯食べ、脂がたっぷり乗った鰹。金華山沖で獲れた後、船上で瞬間冷凍され石巻に水揚げされます。
冷凍なので通年で入手可能ですが、これは「戻り鰹」で本来の時期的には秋なのです。

今回は和歌山串本の「しょらさん鰹」を取り寄せ、和食料理人岡田さんにレシピをご紹介頂きます。
「しょらさん」とは串本の言葉で「愛しい人・大切な人」という意味で、一本一本丁寧に取り扱われている鰹という思いが込められています。

熱い夏に備えて、美味しい鰹と美味しいお酒で英気を養いたいものです。

夏に頂きたいおつまみレシピ