- 1. 新酒を供えて秋の穣りに感謝する
- 2. 酒造を祈る祭
- 3. 貴方の近くにも酒の神
- 4. 新酒のバラエティを楽しもう
- ・直汲み系~炭酸ガスが残っているタイプ~
- ・シュールリー系~滓のあるタイプ~
- ・どぶろく系~炭酸ガスも滓もしっかり残っているタイプ~
- ・純米吟醸無濾過生原酒~炭酸ガスも滓もほとんどないタイプ~
- 5. 上槽の段階での違い
新酒を供えて秋の穣りに感謝する
夏から秋にかけての季節の変わり目に米は穣ります。厳しい台風や猛暑の被害を受けると収穫量が減り、人々の生活に大きな影響を与えます。
命を支える稲作の無事を祈る人々の気持ちは古代より強く、稲作は神が司る物とする信仰が発達していったのでしょう。春には神の降臨を願い、秋には豊穣に感謝する。お酒は神と交流するための手段として特別なものとされ、新酒ができると神に供え神事が行われるようになりました。
今回はお酒の神様と様々な新酒のタイプの魅力をご紹介します。
酒造を祈る祭
毎年11月14日、奈良県桜井市の大神神社では酒まつりが執り行われます。大神神社の祭神として祀られる大物主大神は酒の神様として仰がれ、この祭には全国の酒造家や杜氏が参列し、新酒の醸造安全を祈ります。
前日には酒の神のシンボルである拝殿の大杉玉が新しいものに取り替えられます。そしてその分身とも言える酒林が全国の酒蔵に向けて発送され、「志しるの杉玉」として新酒の出来上がりを告げるのです。式典では神楽「うま酒三輪の舞」が舞われ、神事を厳かに彩ります。
京都市の松尾大社は「大山咋神(おおやまくいのかみ)」を祀り、日本第一酒造神とされています。例年11月上旬に執り行われる「上卯祭(じょううさい)」は、醸造を祈願する祭。4月に執り行われる「中酉祭(ちゅうゆうさい)」は酒に感謝し、稲の豊穣を祈る祭で、稲作と酒造りの節目の時期に行われます。
祭典で奉納される狂言「福の神」は室町時代から伝わる台本「虎明本」を忠実に再現したもので、古くから松尾大社が酒の神様と信仰されていた事を示す貴重な文化財でもあります。
貴方の近くにも酒の神
松尾大社の分霊社はとても多く、その数は1300社に及びます。
全国の銘醸地に存在し、現在も多くの醸造家が熱心に詣っています。江戸時代、酒屋は毎日松尾大社に参るようにといったお触れがでた為、酒蔵の近くに分霊が祀られるようになったのではと思われます。
島根県出雲の佐香神社は、地元では松尾神社と呼ばれ、太古の時代、たくさんの神々が酒を造らせて酒宴を開いた、酒造り発祥の地とされています。10月秋季例祭では酒造りを祝い、造りたてのどぶろくが振舞われます。
灘五郷にある西宮神社や神戸生田神社の境内にも分霊があり、酒類関係者が献酒や寄進をした石碑が立ち並んでいます。広島県西条の酒類総合研究所に程近い御建神社内にも分霊があります。
和歌山の日前神宮・國懸神宮、山形の大山酒神神社、秋田の伊勢堂山の神明社、福島県西会津、新潟県白山神社、府中の大國魂神社、愛知の知多半島等数多く、それぞれ秋には祭が行われます。儀礼用の酒造免許を持っている神社もあり、秋祭で振舞われるどぶろくは飲んでみる価値ありです。
お近くに松尾神社があれば、一度訪れてみてはいかがでしょうか。新酒に感謝し健康と平和を祈れば、今宵の酒はいっそう美味しくなることでしょう。
新酒のバラエティを楽しもう
しぼりたての新酒は、フレッシュで香り高く、炭酸の心地よい刺激や滓から来る濃醇な香味などが魅力です。滓引きやろ過、火入れといった安定化処理を行っていないものは、残留する酵母や酵素によって成分変化を起こしやすく、特に鮮度管理が大切です。
炭酸や滓を残したものや上澄みだけを取り出したものなど、出来立ての魅力を楽しめる様々なスタイルの新酒を是非いろいろ試してみてはいかがでしょうか。
直汲み系~炭酸ガスが残っているタイプ~
口に含むと微かな炭酸が優しく刺激してくれるお酒がこれ。お酒に残った出来立ての炭酸ガスが、濃醇なお酒の口当たりを良くしてくれます。風味がやわらぎ、華やかでフルーティな香りと苦味の少ないまろやかな味わいを楽しめます。
瓶内で生きた酵母が発酵を継続しているものは、開栓時に吹き出しに注意する必要があります。
シュールリー系~滓のあるタイプ~
霞がかかったような神秘的な印象が魅力のこの酒は、ワインの酒質を厚くするため、滓と一緒に熟成させるシュールリー製法に似ています。
「おりがらみ」や「うすにごり」と呼ばれるこの濁り(滓)の成分は、米の破片などが細かくなったもの。透明なお酒に比べ炊きたての新米のような甘やかな魅力に癒される、そんな心地良さがあります。
滓の量は少ない物から多い物まで幅広く、独特の濃厚さに上菓子のような風味を楽しめるものもあります。微炭酸のタイプもありますので、ご自身の好みに合ったうすにごりを探してみるのも楽しいですね。また、静置すると滓が沈殿するので、上澄みの清んだ部分を飲んでから滓を混ぜて飲み比べるのも面白いです。
どぶろく系~炭酸ガスも滓もしっかり残っているタイプ~
このタイプは「活性清酒」といわれるお酒で、新酒そのものの濃醇な香味が楽しめる一方で、瓶内の滓に含まれる酵母が発酵を続けている為、開栓時に酒が噴き出す恐れがあります。
一般的にスクリューキャップになっており、良く冷やして静置し、ゆっくりキャップを緩めて急いで締める作業を繰り返すことで、ガスが抜け、吹き出すことなく開栓できます。栓にガス抜き穴のあるものは、瓶を寝かすとこぼれるので注意が必要です。
醪のまま瓶に詰めた製品もあり、吹き出しの危険がとても高い凶暴さがあるのですが、それが生きてる酒の醍醐味でもあります。
純米吟醸無濾過生原酒~炭酸ガスも滓もほとんどないタイプ~
これぞ「しぼりたて」といったお酒。フレッシュで甘やかな香りがとても魅力的です。
純米吟醸酒の生酒は、その繊細な味わいを生かすため、滓の上澄みの透明な部分だけを取り出します。白桃やメロンのようなフルーティさ、米本来の甘さ、旨味があり、若さからくるキレもある。舌の上になめらかにまとわり、しっかりと味わえます。
無調整の生乳のようなデリケートな品質なので流通量も限られ、酒造りの季節にしか出回らない貴重品です。ワイングラスで香りを楽しむのも良いのですが、錫などの金属製の酒器でキリッと冷やして芳醇さを抑えて味わったり、逆に軽く燗してその芳醇さを存分に体感するのも良いでしょう。冷蔵庫で保管しながら、日数をかけて飲むことでその変化を楽しむのもお薦めです。
上槽の段階での違い
上槽の一番最初、圧力をかけて搾る前に滴り落ちてくるお酒が「あらばしり」。取れる量も少ない希少価値の高い部分です。薄く濁りがあり、華やかに香り高い。アルコール分は少し低めですが、少々荒い味わいが特徴です。
上槽の中ほどで得られるお酒が「中汲み」。あまり圧力をかけずに搾るため、澄んだ色調で香味のバランスも良く、鑑評会の出品用とされる「一番良いところ」です。「中取り」「中垂れ」とも言われ、滓が少なく新酒らしいフレッシュな香りが心地よく引き立ち、落ち着いた味わいです。新酒独特の苦味や酸味が料理とも合い、寄せ鍋や秋の味覚と一緒に楽しみたいです。
上槽の最後に、圧力をかけて搾り出されるお酒が「責め」。強く搾る分、濁りも出て、米や麹の味わいの強い濃醇なタイプ。アルコール度数も高めで、飲みごたえのある味わいを楽しめます。一般的にあらばしりや責めは中汲みにブレンドされますが、そのままの製品もありますので、ご興味のある方は是非探してみて下さい。