酒をつくる酒屋が参画する「特別な風の森」〜棚田での収穫作業〜

実りの時を迎えた「秋津穂の里」

昨日から続く雨がようやく収まり始め、時折晴れ間も現れて、予定通り稲刈りができそうです。つい先日まで続いた猛暑は去り、「秋津穂の里」には心地よい涼しい風が吹き、すっかり秋の気候になりました。

秋の棚田の風景は美しい季節の瞬間で、とても印象的です。1ヶ月前には緑豊かだった棚田も、今では黄金色に染まり、実った稲穂が風に揺れています。棚田を取り巻く山麓の樹木も秋の色合いに染まり、赤や黄色の葉が美しいコントラストを描き出しています。

収穫

本日は、「風の森」の酒米を契約栽培されている杉浦さんの指導のもと、棚田での稲刈りを体験します。

一般的な収穫時期の目安は、出穂から日々の平均気温を足し合わせた積算温度が1000度に達する時とされます。
その時期が近くなると、杉浦さんは穂のつけ根の軸が緑から茶色に変わることを目安にして、それが半分以上になったら収穫して良いと判断するとのことです。

収穫

稲穂はふっくらと張りがあり、病虫害の影響もなく健全に育っています。田植えから約4ヶ月。草取り作業や育っていく様子を思い返すと、格別な思いが溢れてきます。

収穫は、自然と人間の共生を象徴する瞬間です。
その幸せを感じながら、美しい秋の景色に彩られた「秋津穂の里」の恵みを収穫していきます。

収穫作業

収穫

作業はほとんどコンバインで行うのですが、その作業をスムーズにするために、まずは田んぼの端や隅の稲を手で刈り取ります。
この作業は「隅刈り」といいます。

茎の下部を握り、ギザギザになった鎌の刃元を当てて引きます。ノコギリのように何度も引くのではなく、一発でスパッと引くとスムーズに刈れます。茎の中は空洞なので、その束を一気に鎌で刈り取る感触は爽快です。
作業がしやすいように順手で持ち、片手で持てる範囲で3株ほど続けて刈り、畔に積んでいきます。

収穫

「隅刈り」がある程度進むと、コンバインで作業します。機械化が進む前は、稲刈りを手作業で行った後、束ねた稲を柵に掛けて干し、乾燥させていました。
この作業は「稲架掛け(はさがけ)」といわれ、今ではあまり見かけない懐かしい秋の風景です。

乾燥が終わったら「脱穀」と「籾摺り」の作業をし、ようやく玄米になります。

収穫

コンバインは「刈取り」と「脱穀」を同時に行えるため、一連の収穫作業は手作業の1/10の労働時間で済むようになりました。
コンバインは刈り取った穂の部分だけを取込んで脱穀し、籾以外の部分は細かく粉砕して田んぼに吐き出します。

このようにコンバインはとても便利な農業機械なのですが、作業中に手袋や服の裾が巻き込まれる危険があり、適切な服装と注意が必要で、手袋は外して作業します。

収穫

「コンバインにも乗ってみましょうか」と杉浦さんから提案があり、実際コンバインを操作してみることにしました。

この機械はキャタピラで駆動するので安定性がありますが、田んぼには微妙なでこぼこがあるため、一定の方向に進むにはレバーを操作し、体勢を保つ必要があります。

収穫

また、稲穂が倒れている場合は刈り取りツメの高さを微調整します。位置合わせがずれると刈り残しが生じ、その部分は手作業で刈り取らなければなりません。

慣れてくると、稲が面白いように収穫され、処理されていく様子に喜びを感じます。

収穫

一通り刈り取りが終わると、コンバインを移動させ、畔に積んだ稲穂を脱穀していきます。稲は夜露や雨によって濡れているので、コンバインにかける前に水滴を振り払います。稲穂が濡れているとコンバインが詰まるなど不具合が生じることがあるからです。

さらに落ち穂も収集し、棚田一枚分の収穫は完了です。

収穫

藁の香りを感じながら、綺麗に刈り取られた棚田や籾の入った袋を見ていると、充実したうれしい気持ちが溢れてきます。

棚田農業を繋いでいく

収穫

杉浦さんに今年の出来を尋ねたところ、今年は猛暑だったため、田んぼの水が多く蒸発し、7月から8月にかけて水不足になり、それが収量に影響し、残念ながら少なめになりそうだとのことでした。
しかし、手厚い特別栽培の賜物で、品質は例年通りに保たれるようです。

収穫

今年は集中豪雨で畔が崩れ、一部の棚田で作付けできませんでしたが、休耕地の整備によって、来年は作付けする田んぼを増やせそうだとのこと。

更に、新たな農家の協力があればもっと収量を増やせると期待が広がります。
ただし、農業をリタイアされる方はこれからも増えていくので、今後安定した収量を確保するにはまだまだ課題があります。

今回のプロジェクトはその課題を解決するためのもの。田植えや草取りといった棚田の作業に参画したことでその役に立てると思うと、改めて誇らしく思います。

収穫

稲刈りが終わると来季に向けた準備が始まります。

田んぼに残った藁は、肥やしにするために腐らせます。そのままだと土に接触している部分しか腐らないため、トラクターで耕し、切り株や藁を土に混ぜ込みます。この作業は「秋耕」と呼ばれ、これによって炭素系の養分を田んぼに戻すのです。

杉浦さんの特別栽培では、藁も無駄にすることなく再利用し、SDGsに沿ったスタイルを実践しておられるのです。

建設中の葛城山麓醸造所の様子

収穫

稲穂が実り黄金色に輝く棚田と満開に咲き誇るコスモスが織りなす情景はとても美しい。

その中で、醸造所の基礎はほぼ完成し、建設作業は着実に進んでいるようです。油長酒造の中川さんから基礎の各部分がどういう施設になるか説明を受け、おぼろげに醸造所のイメージが浮かびました。

収穫

順調に進めば、年内に建屋が完成し、設備が整い次第仕込みが可能になる予定です。
今秋収穫された秋津穂は、それまで保管され、「特別な風の森」に醸される時を待ちます。

収穫

建屋内の温度管理に影響を与えないように、甑は屋外に出して蒸きょうする予定だそうです。
「秋津穂の里」に立ち昇る蒸気を想像すると、醸される「特別な風の森」への期待が高まります。

この醸造所に多くの人が集まり、援農ボランティアに加え、農業体験や子供たちの学習など新たな可能性が広がることを期待します。

そして「特別な風の森」は棚田農業の価値を高め「秋津穂の里」のシンボルとして輝きを放つでしょう。

収穫

稲の収穫が終わり、プロジェクトは次の段階に進んでいきます。
次回からは、「秋津穂の里」の醸造所で酒造りが始まっていく過程を見守り、その魅力をお伝えしていきたいと思います。

最後になりますが、お忙しい中でも毎回丁寧にご指導いただき、様々なお話を聞かせていただいた杉浦さんに心から感謝申し上げます。

そして「秋津穂の里」での棚田農業がさらに活気づくことを引き続き応援したいと思います。

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